短編2 | ナノ




「…さむい、」

小さくそう呟けば、所在なさげにゆらゆらと布団の中を彷徨っていた彼の手がわたしをしっかりと抱きしめた。きゅ、と身じろいで彼を見上げれば、ばっちりとこちらを見ている瞳と目が合う。

「…起きてたんだ、」
「………寝れるわけないだろ、」

知っていた。弓景の馬鹿みたいに早い心臓の音も、いつもより早い呼吸にも気づいていて、聞こえないフリをしていた。なにもしないでね、と釘を刺したのが効いていたらしい。ほんの少し申し訳なくなる。

「…冬はきらいだよ。なんていうか、生命を危うくさせる、」

弓景の長い髪に唇を寄せた。冬は苦手なのだ。それもこんな風に、芯から冷える夜は。不安になるのだ、わけもなく。

その言葉の意味が伝わったのかそうでないのか、弓景はじっとこちらを見据えた。喜怒哀楽が激しいようで意外と無表情でいることが多い彼には、直接聞いてみるのが一番いい。「何考えてるの?」「…いや、やわらけえなと思って、」ほら。わたしの話をあまり聞いていない。

「…あー、聞いてるよ…あれだろ、冬は嫌いなんだろ、」

わたしの不服そうな視線を感じたのか、頬を掻きながら彼がそう言った。

「……悪いことばかりでもねえよ、酒は美味いし炬燵はあるし…あーあとあれだ、サンタも来る、」

思いがけない台詞にぽかんと口をあけた。どうやら冬の嫌いなわたしに、必死に冬の良さを伝えようとしてくれているらしい。その事実に気づき、思わず笑みがこぼれた。

「そこはあれだよ、大好きな彼女とくっつけるから悪くないとか言わなきゃ、ロマンティック代表としては、」
「…嫌だ、俺は冬以外もくっつきてえしさわりてえ、」

子供のような口調と、アンバランスな仏頂面にまた笑みがこぼれた。変態、と笑えばふん、と鼻を鳴らし弓景は反対側を向いてしまう。照れ隠しのつもりだろうか。


「…ねえ弓ちゃん、」
「あ゛??なんだよもう俺は寝「さっき何もしないでって言ったけど、やっぱりどうにかしてくれてもいいよ、」

その言葉にくるりと弓景が振り返った。凄い勢いだった。布団の中でしばし目が合う。わたしの顔を端から端まで一度眺めてみせた弓景は仏頂面のまましばらくの後に「そうかよ、」と一言呟いた。
わたしの頬に触れた指が震えていて、笑える。ああ、この人と一緒にいる冬は暖かい。

「…何笑ってんだ、抱きしめるぞコラ、めっちゃロマンティックなこと言ってやろうか??」
「あは、もう抱きしめられてるし弓ちゃんがロマンティックなこと言えないのしってるよわたし、」

こんな風に彼と何気ない会話をしながら冬が終わればいいのに。夏の青い空気に彼の金髪が揺れる様を思った。あ、いいなすごく。次の夏もこの人と一緒にいたい、と思った。


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