時間がないの。 わたしは、わたしの基盤を作らなくてはならない。年老いても、色あせないもの。若さがなくても、わたしを大切にしてもらうために、わたしはわたしが価値あるものであるということを、呈さなければならない。 「…僕がいるっていうのに?」 「そう。赤司くんがいても。」 種を撒く。もしかしたら咲かないかもしれない。だからなるべく多くの人の心に。 わたしはあなたのメリットになれますよ、そばにいることで利益を得られますよ、と。 方法は何でも良い。その人の相談を聞いてあげるでも、その人の好きな絵が書けるでも、その人の好きな歌を上手に歌えるでも。 けれどもそれらは長くは続かないことを、わたしは知っている。知っているからこそ繰り返す。根深く、根深く。他人の奥底へ。 「ねえ、名字は馬鹿なことをしているという自覚はある?」 「…ええ、とっても。でもね赤司くん、人間は愚かなものだよ。その中でもわたしは、とびきりの馬鹿だ。誰かに価値のある生き物だ、と言ってもらえなくちゃ生きていけないの、あなたのように強くはないの、」 だからこそ、わたしは他人に認めてもらえることに時間と労力を割く。言ってしまえば、そのためだけに生きている。赤司がため息をついた。 「…気付きなよ。そんなことをしてみても人間の関係性なんて希薄だ、それなら僕との関係性をより強固にしたほうが生産的だとは思わないかい?」 「…本当にそうだね。赤司君はやっぱり頭がいいよ。でもね、だめなの、」 病気なのだ、きっと。 「やめられないの、」 今日も種を撒く。時間はないのだ。生きていくために?そしていつか安らかに死ぬために?わからない。わからないけれどやめられないのだ。咲かないとわかっている花の種を撒き続けるわたしを、枯れた花に絶望し時折立てなくなるわたしを、ねえ、笑ってくれて良いよ、赤司くん。 |