短編2 | ナノ




痛む頭を抑えながら臨也が目を覚ませば、そこは見慣れないホテルの一室であった。ベッドはお約束のようにダブルサイズで、ああ。自分はどうやらラブホテルにいるらしいと理解する。

「…おはようございます、具合、大丈夫ですか?」

ひょこりと洗面所から顔を覗かせたのは見知らぬ女で、その事実にどきりとする。どうやらそういうこと、らしい。

「……俺、そんなに飲んだかな?君のこと、ぜーんぜん覚えてないんだけど、」

怒るだろうか、と思いながら軽い調子でそう告げれば、意外にも彼女はからりと笑った。結構飲んでましたよ。あ。わたしとりあえずお風呂入ってきますね。

言いながらバスルームへと姿を消す女。随分とマイペース、そして不用心だ…と思いながら、手近にあるハンドバッグを拝借する。免許証は直ぐに見つかった………ふうん、名字名前、ね。

ゆっくりと部屋を見渡せば、おぼろげながら昨日の記憶も蘇ってくる。たまには人間観察も場所を変えてみようと思い、立ち寄ったバーで彼女に出会ったのだ。飲み慣れているのか話しかけられ慣れているのか、嫌味なく臨也を受け入れた彼女に付き合っていれば、すっかり酔いが回ってしまった。手近にあったホテルへと、彼女の腕を引いたのに時間はかからなかったように思う。
まあたまにはこういうのもいいか、と思いながらゆっくりと部屋を見回した。特段焦った様子もなかった彼女だが、こういうのは慣れているのだろうか。あんな飄々とした女が夜はあれだけ乱れるのだ、いかにも男好きしそうだ、と臨也は分析する。


「…あ。ここモーニングのサービスあるんだ、どれにします?」
「…君、案外余裕だね?こういうのよくやってるの?」

バスタオルを巻きつけたまま、手元のメニュー表を捲る所作に呆れながらそう問えば、彼女は一瞬だけきょとんとこちらを見返した。
見れば見るほど、頭の先から爪の先まで害のなさそうな、普通の女だった。どうしてこんな普通の女と致してしまったのだろう、と臨也は内心で苦笑する。
そうして質問の意図に気がついたのかああ、と声を上げる。

「まさか。行きずりの男の人とこんなことしたの初めてですよ!でも楽しかった、ありがとうございます、」

臨也の嫌味にも気づかず、挙げ句の果てに遠足に行ってきたとでも言いたげな感想を述べる女。些か面食らう。そうしてほくそ笑んだ。新しい場所で新しい人材を探してみて、正解だったかもしれない。

「…君みたいに若い子がそんな発言するなんて、いただけないなあ。もっと自分を大事にしなくちゃ、ね。名字さん、」
「そうですか?若いうちは何事も人生経験かなって思いますけど、」

飄々と言ってのける彼女は、どうして臨也が自分の名前を知っているのか、疑問にも思っていないのだろう。おまけに新宿の情報屋を相手に「人生経験」ときた!

その笑みはいつまで続くだろうか、と思いながらにこにこという擬音のつきそうな笑顔を見つめ返す。とんでもない相手に目をつけられたということを、時間をかけて思い知らせてやることにしよう。


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