○スーパーカー | ナノ

通されたのは、池袋の夜景を一望できる高層ビルのレストランだった。ボウリングの流れで、てっきりどこかのファミレスにでも行くのだろうと思っていた名前は、車が高層ビルの地下駐車場へ吸い込まれたあたりで目が点になる。なるほどたしかに奈倉はこういった場所に相応しい人間であるとは思うが、その連れが自分であっていいのだろうかと、名前は気後れする。

「…あの、わたし、入れませんこんなところ、」

当然のように個室へと入っていこうとする奈倉の服の裾を摘めば、彼は何故だか嬉しそうに目を細めた。

「…ああ、名前はいつもそう言ってたっけね。まあ俺としては、君のそういう嫌がる顔が見たくてわざと連れてきてたところもあったんだけど、」

笑みを崩すことのない奈倉は、そのまますたすたと歩を進めていく。「奈倉さん、性格悪い、」と名前が呟けば、「今更気づいたの?」と驚いた声が返ってくる。
先程までのチカチカしたボウリング場の照明に慣れていた名前にとって、上品な灯りの設置されたこの部屋はひどく居心地の悪いところであった。そんな彼女を知ってか知らずか、奈倉は優雅な所作で名前を椅子までエスコートし、自分もまた正面の席に着いた。

「ここに来るといつも名前はビビって注文できないから、いつもみたいに俺が先に注文しといたたんだけど別にいいよね?ああ安心して、ちゃんと君の好みは把握してるから、」

すっかり萎縮してしまった名前を面白そうに見つめ、ピン、とグラスを指で弾きながら奈倉は流れるようにそういった。名前はぶんぶんと首を縦に振りながら、日頃の自分が当然のようにここで食事をするような人間でなくてよかった、と安堵する。そうして同時に、ああ、自分はこの男と随分長いこと一緒にいたのだろうなあと再確認する。

「ここには…その、わたしもよくきてたんですか?」

自分のことを他人に尋ねるだなんて滑稽な話だと思いながらも名前は彼にそう問いかける。窓の外を見ながらうーん、と唸った奈倉は思い出を反芻するように首を傾ける。

「そうだなあ、君の誕生日とか、そういうちょっと特別な時に来ることが多かったかなあ、」
「…それなら、今日はどうして、」

問いかけようとしたその刹那、控えめなノックが聴こえて名前は口を噤んだ。扉の方を見れば、前菜のサラダ、そしてワインらしきボトルを乗せたカートが静かに近づいてくる。恭しくグラスにワインを注ぐウエイトレスを横目に奈倉を見れば、彼は楽しそうに目を細めてこちらを見据えていた。自分の一挙一動を観察されているようで、気恥ずかしくなる。

「それじゃ、乾杯、」

池袋の夜景を背景に奈倉は綺麗な笑顔で笑う。その笑顔にほんの少し不信感を覚えながらも、名前もまた、彼の方に向かってグラスを傾けた。
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