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ロンリーベイベー(臨也)




臨也さんだったらよかったのに、と思ったら涙が止まらなくなった。



「泣いてるの?」

かわいい、と耳元で声がした。きもちわるい、と正直に思ってからまた、彼が臨也さんだったら、と思った。

「だま、って、」

あなたを臨也さんだと思うことにするから、という台詞を飲み込んでそう告げると、男が小さく笑う気配がした。
目を閉じればなにもわからなくなれて、息遣いだけが聞こえた。

不意に思い至った。体温なんて大体36.5℃で呼吸の仕方だって一緒だ。その点においては、この男と折原臨也にだって大した差はない。

聴覚も視覚も遮断したわたしは、堪らなく自由になれた気がした。不自由になるほど自由だなんて、おかしな話だ。

するりと肌を撫でる気配がした。臨也さんも、同じようにわたしを触ってくれただろうか。
唇に重みを感じた。臨也さんも同じくらいかさついた唇をしているのだろうか。
息遣いが荒くなるのを感じた。臨也さんも同じように興奮して、くれただろうか。



同じ人間で、同じ人肌で同じ重みで、
なのにどうして心の何処かが死んでしまったように動かないのだろう。何がこれほどまでに違うのだろう。埋めようとすればするほど違うと感じてしまうのは何故だろう。


あ、
と苦しげに男が声を吐いて、そして引き戻される。涙が止まらなくなる。

泣かないで、と呟いた声も涙を拭う指先も、臨也さんのものじゃない。似ているはずなのにこんなにもちがう、近づけると思ったのにこんなにも遠い。それはどうしてだ、どうしてわたしたちはこんなにも、愚かな生き物なのだ。種の繁栄のためだけに、愛を交わすことができないのだ。

ぐっと貫かれる感覚がした。わたしが、わたしのものでなくなった。そして今夜わたしは、臨也ではない男のものになるのだ。


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