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バニラアイスとワルツ(臨也)




夢を見る。真っ白な夢だ。わたしは真っ白な部屋に座り込んでいる。
そこへ真っ黒な彼が現れるものだから、わたしは思わず手に持った白い錠剤を取り落としてしまう。

『駄目だよ、』

彼は言う。

『忘れるなんて許さない、』

なにを、と返答するはずのわたしの口から、ごぼごぼと何かが溢れる。真っ白でべたついた、なにか。それがわたしの言葉を奪うのだ。

『都合よくいい思い出だけを残して、忘れることなんて許さない。忘れたい思い出に殺されながら、君は生きるべきだ、』

それから突如距離を詰めた彼はわたしの首をぐっと締めて、言う。

そのまま死ぬなんて許さない、






目が覚める。
やけにびっしょりと汗をかいている。
わたしは小さく息を吐き、ベッドを降りた。その足でTシャツを脱ぎ捨てながら、シャワー室へと向かう。今日が、はじまる。


新しい職場は新宿の高層マンションの一角で、そこには上司とその秘書がいる。

「おはようございます、」
「おはよう、今日はいつもより早いんだね、」
「…なんだか目が覚めちゃって、」

わたしの言葉に、彼はふうんとこちらを一瞥する。

波江は今日は休みだから、ホワイトボード見て適当にこなしといて、
上司はパソコンから目を離すことなくそう告げる。

その言葉に生返事をしたわたしは、ホワイトボードに並ぶ端正な字を眺める。頭の中で今日の仕事の算段をつけながら、麦茶をもらおうと冷蔵庫へと向かう。

「あ、冷凍庫にアイスがあるから、良かったら食べて、」
「…珍しいですね、」

滅多にこの事務所で飛び交うことのない単語に思わず顔をしかめながらも冷凍庫をあける。そこには、バニラアイス。

瞬間、香る。鼻に付く、甘い香り。猫のような目、黒い影、首筋の重さ、そうだ、あれは、あの男は、


「…夕べ、折原さんの出てくる不思議な夢を見たんです、」
「……奇遇だね、俺も君の夢を見たような気がするよ、」

チェシャ猫に似た目が何かを知っているかのように笑う。彼の白い首筋にクラクラする。わたしは皿に盛った白いバニラアイスにスプーンを突き刺す。兎にも角にも、この男と、話をしなければならない。

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