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23.拝啓、港町のあなたへ



『拝啓、シャクタ様

お元気にしておられますでしょうか?
先日は助けていただいたにも関わらず、碌なお礼もできないまま立ち去ってしまいごめんなさい。
あのあとわたしたちは、無事に海軍の追撃を躱し、次の島へと到着しました。
果物の美味しい島でした。

幽霊の話をしたところ、クルーのみんなは大層怖がっていました。男所帯なのに、です。
シャクタさんにお守りをもらったから大丈夫、と鏡を見せたところ、みんな大層ありがたがり、わたしの部屋にきちんとくくりつけられるようにまでしてくれました。なので当面、呪い殺されることもないと思います。ありがとうございます。

次の島でインスタントのコーヒーを買ったのですが、どうもあのカフェでごちそうしていただいたコーヒーのような風味が出ません。お砂糖ミルクを入れれば飲めるようになったので、いつかグランドラインを一周したら、またその島でコーヒーをごちそうしてください。

また手紙を書きます。ありがとうございました。
かしこ。
ナマエ』


非常に丁寧なその文面に、シャクタは面食らった。あれだけため口で話しかけて来ていたにも関わらず、案外律儀な女だ、と苦笑する。
思い返せば、器量だって悪くなかったし、些か物騒ではあるが従順な女であった。1日にも満たない短い付き合いで、心をつかんで離さないのだから、あの船長が大事にしたがる気持ちもわかるような気がした。

「……ああ〜、良い女だったのかもしれないなあ…」
「?どうしたシャクタ、」
「いや、こっちの話、」

仕事仲間が不思議そうにこちらを見やる。その言葉に苦笑を返すと、さらによくわからない、とでも言いたげな顔をされた。

おそらく、あの幽霊は彼女ではなく、その周囲にいる人間に関わりのあった人物であるとシャクタは予測していた。そしてその人物が、おそらくあの船長であるということも。
だからこそ、あの場で2人を一度引き離した。幽霊の肩を持つ気はないが、死して尚残るような他人のいざこざに首を突っ込む資格もない。増して、両思いの癖に何らかの原因でお互いを退けている男女のいざこざになど、入り込む気力もない。

これがこの能力の難しいところだなあ…とひとりごちながら、今日も『占い あなたの未来を見通します』という看板を横に立てる。霊能力者のような扱いをされてしまったが、自分は本来占い師なのだ。

偶然にもその場所は、初めて彼女に声をかけた場所と同じで、苦笑しながらシャクタは彼女のことを思った。不審そうな顔で、それでもどこか無防備な女。もしももう一度この島に彼女が降り立つなら、そしてそのときにまだあの2人が煮え切らない様子ならば、今度こそ彼女をさらってしまうのもありなのではないかと、懲りない男は考えるのであった。

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