14.氷のキスが欲しい
「あつい…なにこれ死んじゃう…」
「縁起でもねえこと言うんじゃねえぞナマエ…」
「そうだぞ…俺なんて毛皮着てるんだからな…」
甲板の上には3つの体が横たわっていた。それらは全てぐったりと力が抜けており、さながら屍のようである。
無事にグランドラインへと足を踏み入れたハートの海賊団を待ち構えていたのは、彼らが体感したことのない夏島の洗礼であった。ノースブルーの冷たい気候に慣れきっていた彼らにとって、この気候は殺人的であった。
「お前ら…気持ちはわかるがちゃんと働け!」
そんな3人の顔面に容赦なくバケツの水をかけたのはペンギンである。
思いがけない衝撃に、3人は同時に飛び上がる。
「きゃあ!!ペンギン!人でなし!!」
「てめえペンギン…なんてこと…」
「鼻に水が入った……酷いぞペンギン…」
恨みがましく自分の名前を呟いた3人に、ペンギンは眉を寄せた。
「狭い日陰を取り合う暇があるなら、ちょっとでも早く次の島に着けるよう進路を調節しろよ…俺にばっかりやらせやがって…」
ペンギンの溜息に対して、うっと言葉に詰まった3人。でもねペンギン、とナマエが必死に言い訳をしようとした瞬間、彼女の顔面に再度水がかかる。
「…ええ、ひどいよペンギン…」
ぽたぽたと水を滴らせながら、ナマエがぐすんと悲しげに鼻を鳴らした。
「…おいペンギン、さすがに今のは…「待て待て!俺じゃないぞ!」
じとりと自分を睨むベポとシャチに対し、慌てて両手を上に上げたペンギン。その様子にベポとシャチが顔を見合わせる。
「馬鹿言うなよ、お前じゃなかったら誰だって言うんだよ、」
そうだそうだ、とベポとナマエが頷く。困ったように頭を掻きながら、ペンギンが待ってくれよ…と呟く。その瞬間、先程のナマエと同様に、残りの3人にも思い切り水がかかった。
黙り込んだ4人の背後に、つかつかと足音が迫ってくる。
「………お前ら…今すぐ働かねえと次は海面に投げた石とお前らを入れ替えてやる…」
振り返らずとも、声の主はわかっていた。その声に、口々にアイアイキャプテン!と叫んだ4人は散り散りに自分の持ち場へと散ってゆく。
「…チッ、」
慣れない気候にローもまた、苛ついている様子であった。
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