線香花火


依頼人といつもの喫茶店で会った後。
ふらふらと商店街を歩いていると、大安売りの文字。
なんだろうと見てみると花火セットだった。
「鈴子!大安売り!!」
安い物が好きなアンジュは目ざとくそのポップを見つけた。
「あーはいはい」
軽く受け流す鈴子にアンジュは上目遣いで可愛くおねだり。
「すぅーずぅーこぉー」
ちらりとアンジュの顔を見る。
はぁ、とため息ひとつ。
千円札を渡して行ってらっしゃい。と、言うとぱぁーっと表情を明るくしレジへ駆けていった。



その夜。
食事中もアンジュがソワソワしているのがよく分かった。鈴子は内心苦笑しながらも花火の話題にはあえて触れない。
「鈴子、鈴子!」
食後のコーヒーを飲みながらのんびりとしていると痺れを切らしたアンジュが声をかける。
「なぁに?」
「花火!!」
目をキラキラさせている彼女に尻尾があったなら、ちぎれんばかりに振っているに違いない。
「んー……バケツに水入れて庭に来なさい」
「きゃあーー鈴子大好き!!」
走って行く後ろ姿をみて鈴子は柔らかく笑った。



「見てみて!これ色が変わった!」
「そーねぇー」
「これ、なんかニョロニョロしてて気持ち悪い!」
「そーねぇー」
鈴子は一人できゃあきゃあと楽しげに花火をしているアンジュを見ながらビールを煽っていた。

「むぅー鈴子もやろうよー」
そういったものの花火はほとんどアンジュが使ってしまって最後に一種類の細いこよりのようなものが残っているだけ。

「なにコレ?地味じゃない?つまんなそう……」
「あんたはお子ちゃまねぇーコレが一番私は好きよ」

ビール缶を置き、しゃがむ。
アンジュが地味でつまらなそうと言った花火に火をつけた。
パチパチ……
小さな火。
次第に火花が散る。
その様をアンジュは食い入るように見つめていた。
火花が大きくなり、そして小さくなる。
「アンジュ、よく見ておきなさい」
次の瞬間、ぽとり、と小さな火の玉が地面に落ちた。
「この瞬間が私は一番好きなの」
「どうして?」
「どうしてかしらね……でも人間の人生みたいで良いと思わない?」
「人間の人生……」
「おぎゃあ、と小さな生命が生まれて成長して最後は朽ちるように死ぬ。ね?」
「……うん。うん」
そう頷くアンジュの瞳には涙が浮かんでいた。
「なに泣いてんのよ」
「綺麗だから。あと、鈴子が悲しそうだから……」
「そう……」


この線香花火が好きになったきっかけのあの人は線香花火のように儚い人だった。
嗚呼、彼女のことを無意識に思い出していたのかもしれない。
線香花火。
パチパチ。

無言で鈴子とアンジュは線香花火に火をつけた。
まだ消えないで、まだ落ちないで。
お願いだから……
囁かな願い。




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