ダンスホール
人っていうのは一人で生まれて一人で死んでいくのよ。
鈴子は時々この言葉を口にする。
ぽーんとこの世に放り出されて最後は土に還る。
嗚呼、なんて寂しいことを云うのだろうとあたしは思う。
彼女の生い立ちをよく知らないあたしには何もわからない。彼女が何を考えて何処へ行こうとしているのか。
ただ、鈴子の側にいることで彼女の欠けた部分を補えるんじゃないかって自惚れているだけかもしれない。
完璧な鈴子。
容姿端麗、文武両道。
誰もが羨むその内に秘めた心は長年付き合っているあたしにも分からない。
この世の中を冷めた目で見ていることには違いない。
何処まで行けばいい?
何処まで付いていけば貴女の心の内が分かる?
鈴子、貴女は一人で寂しくはないの?
涙を流すところも見たことがない。
人形のような貴女。
綺麗に着飾って仮面をつけて。
今日はどんな曲で踊るの?
くるくるくるくる
貴女は一人で踊るの。
時に激しく時に優雅に。
そろそろ気付いたらどう?
ダンスをするにはパートナーがいた方が何倍も楽しいってことに。
あたしは気付いてくれるのをダンスホールの壁にもたれて伺っているのよ。
さぁ、少しだけ。
少しだけ手を伸ばしてそうしたら私がその手を取って一緒に踊れるのよ。
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