彼と彼女のお出かけ


「あっ……」
ある休日の午後。
何気なく入ったデパートで知った顔を見つけ思わず声を上げた。
しかし、純は何事も無かったようにそそくさとその場を後にしようとしたが、一緒にいたミーハーな友人の光子が「あれ、モデルの弓月じゃない?! 」と言っている。
それに対して「あ、そうなんだ」とサラッと流す。
光子はうわーうわー顔小さいーカッコイイー!と騒ぎ立てる。
「実物はさすがに違うわーテレビとか雑誌で見るよりオーラって言うの? それがあるよね! 」
「んー」
純は冷や汗ダラダラで早くここから少しでも遠くへ行きたかった。
弓月はテレビの撮影かなにかでカメラの前でショップの洋服を手に取ってコメントなんかしている。
周りには人だかりが遠巻きに出来ていて若い女の子やオバサマ達もキャーキャー言っている。
「お疲れ様でした!! 」
スタッフの声がした。
どうやら撮影は終わったようだ。
「ありがとうございました! 」
テレビクルー、ショップのスタッフに頭を下げ挨拶をする弓月。
そしてギャラリーの方に向かって手を振り深々と頭を下げた。途端にギャラリーはヒートアップ。
『きゃぁーーー!! 』
光子まで「弓月ー! 」と手をブンブン振っている。
「光子ちゃん。もう行こ? 」
「純ちゃん、弓月タイプじゃない? 」
「あーうーん……」
純は光子の手を引っ張りデパートを出た。

近場のカフェでお茶をしていると電話。
相手は弓月だった。
「ん? 出ないの? 」
光子が怪訝な表情でスマホを覗こうとしたので慌てて席を立った。

「……もしもし」
『純ちゃんは俺のことタイプじゃないんだってね〜』
「地獄耳。で、用件は? 」
『純ちゃんのことに関してはね。これからデートしない? 』
「へ? 」
『私メリーさん今アナタの後ろにいるの』
はっとして後ろを振り向くとそこにはサングラスにマスク姿の弓月が立っていた。
「ばか? こんなところ見つかったら……」
「大丈夫。撮影の時と服も違うし」
自然と小声になる二人。
「行くよ」
弓月は純の手を引いて歩き出した。

「光子ちゃんごめん。今度埋め合わせするからっ!」
その後タクシーに乗り、光子に電話した。
『何がどうしたのかわかんないけど今度、表参道でランチねー』
「ホントごめんっ! 」
そんなやり取りをしているとタクシーは目的地に着いたのか停車した。

「前から純ちゃんにここの服似合いそうだなって思ってて。でも外で会うことってなかなか無かったし」
タクシーから降りるとそこにあったのは1軒の路面店。
住宅街の中にぽつんとあるお洋服屋さん。
入口は半地下になっていた。
弓月に続いて店の中に入る。
「わぁ、可愛い」
そこにあったのはクラシカルでエレガントなラインから甘い雰囲気の洋服など。
「気に入ってくれた? 」
「うん」

店内の装飾も落ち着いた感じでクラシカルな調度品でまとめられていた。

ぼーっと立ちすくんでいると弓月が早速、何着か手にしてやってきた。
「これとかどうかな。試着して来て」
「へ? あ、うん」
すると、品のいいマヌカンがこちらへどうぞと試着室へ案内してくれた。
他に客も居らず、さながらファッションショーの様に弓月の言われるがままに試着を繰り返す。
弓月は時折マヌカンに耳打ちしてアクセサリーや靴を持ってこさせた。
「うん。もういいよ」
「はぁ……」
「お疲れ様でした。どれもとてもお似合いでしたよ」
にっこりと微笑むマヌカン。
「じゃあ、これ全部」
カウンターに置いてある服と小物、靴の山を指差して弓月はさらりと言った。
「ちょ、私そんなに買えないよ」
「心配しなくていいよ」
そう言うと財布を取り出し会計を済ませた。
純は呆気に取られしまった。

「ありがとうございました」
マヌカンに見送られて店を出た二人。
「何のつもり? 私、こんなことされたら困る」
「そーゆーこと言うから」
「だから何? 」
「俺は好きでやってるの。純ちゃんは素直に『弓月ありがとー大好きっ! 』って言ってればいいの! 」
「んんーー……ありがと」
「大好きは?」
「はいはい。大好きですよー」
子供みたいな弓月にクスクスと笑ってしまう。
「それにしても売れっ子は違うねぇ。私、金額みて叫びそうになっちゃた」
「今度から友達には好きなタイプは弓月って言ってくれれば良いよ」
「はいはい」
「はいは一回! 」

空はいつの間にか茜色に染まっていた。






- 5 -
[*prev] | [next#]
[しおりを挟む]


[BACK]  [TOP]






人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -