彼と彼女の涙の味


珍しく純ちゃんからLINEじゃなくて電話がかかってきた。
「……弓月、今すぐうちに来て」
「今、撮影終わって食事会してるとこなんだけど」
「弓月、会いたい……」
「今すぐ?」
「うん。今すぐじゃなきゃダメなの」

純ちゃんが俺にこんなワガママを言うのは初めてでなんだか胸騒ぎがした。
関係者に謝罪してその場を足早に出る。
外は寒くておまけに雨まで降り出していた。

大通りに出るとタクシーを拾い純ちゃんのマンションへ。
するとまた電話。
「弓月、今どこ?」
「今タクシー拾って純ちゃんのマンションに向かってる」
「うん。わかった」


マンションに着きインターフォンを押すとすぐに扉が開いて引きずり込まれる。
そのまま純ちゃんが抱きついてその勢いで俺は玄関で尻もちをついてしまった。
小刻みに震えるいつもより小さく感じる肩。
嗚咽を漏らす純ちゃんを初めてみた。
「純ちゃん、大丈夫だから。俺、純ちゃんのところに来たよ」
「うん」
強く抱きしめて純ちゃんの頭を撫でた。
しばらく泣いていた純ちゃんも落ち着いたようでぽつりぽつりと話し始めた。
「猫がね。死んだの」
「うん」
「捨て猫だったんだけど、弱ってたんだけど、病院にも連れていったの。でも死んじゃった」
そう言って純ちゃんはノロノロと立ち上がりリビングの真ん中に白いタオルが掛けられた場所を指さした。
俺は手を合わせてからタオルをめくると白くて小さな子猫が目を見開いて、体は冷たく死後硬直していた。

「私がもっとちゃんとしてればこの子は死ななかったかもしれないのに。仕事から帰ってきたら……」
「純ちゃんの所為じゃない」
純ちゃんには酷かもしれないけどこの子の寿命だったんじゃないかと思う。
「最後に純ちゃんのところで可愛がってもらえてこの子も良かったって思ってるよ」
だから純ちゃんが思い悩むことはない。
「許してくれるかな」
「明日になったら焼いてもらいに行こう」
「うん。弓月、今日は一緒にいてくれる?」
嗚呼、純ちゃんはさっきまでワガママ言ってたのに今度は気を使う。
「このまま帰らないよ。純ちゃんさえ良ければ抱っこしてもいいよ」
「な!なんて不謹慎なことを!」
顔を赤らめてポカポカと叩く純ちゃんは可愛い。
「良かった。ちょっと元気になった?」
「……うん。ありがとう」
「寂しい時は俺のこと呼び出していいからね。極力会いに行くから」
「極力?」
「努力します」
仕事に穴は開けられないからね。
「弓月、抱っこ」
「はい。お姫様」

その日、抱いた純ちゃんはいつもより素直でキスをするといつもよりしょっぱかった。





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