彼と彼女の年越し


ピンポーン
インターホンが鳴り、モニターを覗くとメガネにマスクの男が立っていた。
「どちら様でしょうか? 」
『俺、俺〜純ちゃん開けてー寒い! 』

今日は会う約束をしていない。
なのでルームウェアにすっぴんのままだがドアを渋々開けた。

「聞いてない」
「何が? 」
「今日、仕事なんじゃないの? 」
弓月は私の言葉を気にせず靴を脱いで部屋に上がり込んだ。
「ん、撮影早く終わった」
「ふーん」
「純ちゃん、またビール飲んでたの? 」
弓月は冷蔵庫を開けてコーラを取り出しテレビの前に座る。
「紅白始まってる〜」
「弓月。ご飯食べた? 」
「まだ。蕎麦食べたい」
彼は至ってマイペースだ。
弓月と出会って一年と少し。
まだ、お互いにお付き合いしてください的な言葉はない。
なんとなくそんなことを考えながら純は電気ケトルのスイッチを入れた。
「カップ麺しかないよ」
「んー」
気まぐれで蕎麦のカップ麺を二つ買っておいて良かった。
弓月はメガネとマスクを外しリラックスモード。
紅白を観ながら、あーこの人と仕事したけどいい人だったよーとか彼の発言はやっぱりショービズの世界に身を置く人間って感じだ。
『いい人』と言われた女性アイドルをみて弓月はどんな風に接したのかなと思った。
正直、最近の若いアイドルや女優には疎い。
みんな同じ顔に見える。
「なに難しい顔してるの? 」
弓月が眉間に指を当ててぐりぐりと押してくる。
「痛いです。弓月さん」
「お湯沸いてる〜」
「はいはい」


「やっぱり、大晦日は紅白に年越しそばだよね」
「まさか、弓月が来るとは思ってなかったけどね」
「クリスマスは会えなかったから」
「気にしてたの? 私はノーアニバーサリー女だから別に気にしてないよ」
そう云うと不満そうな顔をする弓月。
しかし、彼も記念日とか気にしない方だと思う。
初めてのクリスマスは出会って数時間後に訪れた。
好きだった人を親友だと思っていた人に取られてむしゃくしゃしていた私がクリスマスパーティーで誘ったのが初対面の弓月。
そのまま、適当なホテルで一緒に朝を迎え、引き留める弓月を置いてクリスマス当日はライブがあるからとそそくさと別れた。
そんな関係が一年も続くとは思っていなかったというのが正直な感想。
「純ちゃんは年越しの瞬間なにする? 」
「年越しの瞬間? ジャンプでもするの? 」
弓月の子供っぽい問いかけに噴出した。
「あーバカにしてるでしょ? 絶対にそれ後悔させてやるから」
蕎麦も食べ終わりみかんに手を伸ばしながら弓月が睨む。
そんな話をしていてるとテレビの音は静かになりゆく年くる年が始まっていた。
「はぁ、やだやだ。一年終わっちゃう」
「一年って早いよね」
「弓月より私の一年の方が早いよ」
「え? 同じじゃない」
「甘いな。年取るごとに時間は早く進むんだよ。あーやだやだ」
年齢が一回りも違うのだから絶対に感じ方は違うはず。
「ネガティブな言葉で年越さないでよ。あと一分で年越すんだから」
年越しへのカウントダウンは始まっていた。
「あーん! うるさいよーアラサー女子の気持ちなんて分からないですよね! 」
騒いでも喚いても時間は進む。

「純ちゃん」
「な、ん……」
唇に柔らかい感触がして時が止まったように長く感じる時間。

「あけましておめでとう」
ニヤリと笑う弓月の顔が憎らしい。
「んーー! ゆーづーきー! 」
「年越しの瞬間は純ちゃんとちゅーでした」
語尾にハートマークでも付いていそうだ。
「ホント、勘弁してよ」
恥ずかしくて両手で顔を覆う。
それをみて笑う弓月が恨めしい。
「素直な純ちゃんはベッドの中だけだねぇ」
「黙れっ! 」
「ベッド行く? 」
「行かない! 」
「あははは〜」





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