彼と彼女のソネット


「ねぇ。なんでこんなに胸が痛むのかな」
「突然なに?」
年下の彼は欠伸をしつつ微睡んでいる。
彼と云っても彼氏彼女の関係ではない。
でもするとこはしている。
その辺はとても複雑なのだ。

「いや、何でもない」
「俺、眠い」
「うん」
彼は私の胸に顔を埋める。
私は艶ややかな彼の黒髪を撫でた。
自分より一回りも年下の彼。弓月は私なんかよりずっとしっかりしていて精神年齢も上だと思う。
思っていた。

「純ちゃん、純ちゃん」
「ん? 」
「やっぱ、もう一回シたい」

誘ったのは私の方からでなんとなーく、冗談交じりに言ってみたら軽くOKした弓月。
最初はやったーとか、ラッキーとかより何で?と思う気持ちが強かった。誘っておいてなんだけど。
嗚呼、この子は私じゃなくてもいいんだろうな。手身近にいたからなんだろうな。
そう思えばそう思うほど私は卑屈になって思考は冷めていく。

そんな私の心とは裏腹に弓月の指先や舌は熱い。

「ん、弓月……」
「純ちゃん、俺とシてるのに考え事とか余裕じゃん」
「そんなこと、ないよ」
「ウソつき」

最初はただの遊びのつもりだった。
だって弓月は若いから。
何時か私を捨てて私より若くて可愛い女の子の所に行ってしまうから。
だからこれは遊び。
本気になんてならない。
私は弓月を束縛しない。
弓月が何をしていようと干渉しない。
それがマイルール。
そのはずだったのに。


「なんで泣いてんの? 俺、やっぱ下手? 」
弓月の声ではっとした。
私、泣いてる……?
ダメだ。今日はいつになく感傷的になっている。生理が近いのかも。

「欠伸しただけ」
「なんでそんなバレバレのウソ吐くのかな」
そういうとほっぺたをギュッとつねる。
「いひゃい! 」
「俺、ウソつき嫌い」
プンプンと頬を膨らませて不機嫌になる弓月。
そりゃそうか。
「弓月はいつか遠くへ行っちゃうんだよ。私なんか置いて」
ぽつりと呟いた言葉に弓月は明らかにイライラしている。
精神年齢年上と思っていたが不機嫌な時は分かりやすいくらい態度に出る弓月。
なんやかんやで成人しているが子供っぽい。
そんなところも嫌いじゃない。
あー私も焼きが回ったな。
「なにそれ」
弓月は一言吐き捨ててベッドから抜け出した。
弓月の所為で身体は熱い。心は冷える。
また、泣きそうだ。私、年上なのに。

プシュッと言う音。弓月は冷蔵庫からコーラを取り出したのだろう。
ビールもあるが彼は苦いからと言う理由で飲まない。だから私は冷蔵庫には弓月用にコーラ。自分用にビールを常備している。
弓月がコーラを飲むのはシャワーを浴びた後と情事の後だ。

今日はもう触れてくれないんだなーなんて頭の隅で思う。

「純ちゃんね。いっつも自分で悩んで自分で自己完結するの辞めてくんない? 」
何考えてんのか知らないけどつまんないことでしょ。と付け加えた。

「うん。くだらないこと」
「くだらないことなのに俺のこと上の空になるくらい頭いっぱいになってんの気に入らない」
「弓月は何考えて私のこと抱いてるの? 」
また、うんざりした表情で私を見る弓月。
「女ってめんどい」
「私達、そろそろ……」
「それがめんどいっていってるの! 」
頭をガシガシ掻きむしって弓月は乱暴にペットボトルをテーブルの上に置いた。

「俺ね、そんなに器用じゃないの。分かる? 」
「うーん? 」
「好きでもない人とこんなことする時間とかないっていってるんだよ! お分かり? 」
弓月は一気に捲し立てるとそっぽを向いた。
耳が赤い。弓月は肌が白いから余計に目立つ。
「あ、そっか……うん。あー」
「全然分かってないでしょ。もう! 」
弓月は私をかき抱いて「つまりね。純ちゃんが好きってことだよ」と、耳元で囁いた。
「え? え? ちょ! もう一回言って! 」
「ばかじゃないの?! もう言わないから! 」
「だって、私、弓月より年上だよ。弓月にはもっと若くて可愛い女の子がお似合いだよ」
「本当にくだらないこと考えてんだね。鈍い純ちゃんは嫌いだよ。知ってると思うけど俺ね。無駄なこと嫌い。はい。この話はここまでー」
弓月はベッドに潜り込むと「明日、早いんだよね」と言いすぅすぅと寝息を立てて寝てしまった。
私はもう少し自惚れてもいいのだろうか。













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