彼と彼女の秘密のネックレス


しとしとと降る雨。
昨晩から降り始めたようで今もなお止む気配はない。
純は弓月を起こさないようにそっとベッドから抜け出した。
テーブルの上に目をやる。
独特の青い色をした箱が置いてある。

ティファニーブルー

そう呼ばれる色。
それを見ていると胸が苦しい。
そっと、壊れ物を扱うように手に取って箱を開けると中にはアクアマリンの石があしらわれたシンプルなネックレスが入っている。
贈り主はこの石が持つ言葉の意味を知っているのだろうか?
知っていても知らなくても純にとって、この小さな石がぶら下がったネックレスは重かった。
身につければきっと重くて身動きが取れなくなってしまう。

ため息ひとつ吐いて箱を閉じた。
そのままドレッサーの引き出し奥深くにしまう。
ふと、鏡に映った顔をみてゾッとした。
若い頃にはなかった小さなシミが頬にあった。
寝ている弓月の顔と交互にみる。
彼の肌は男にしては白く木目も細かい。職業柄、肌を酷使しているとは思えない。
また、ため息が漏れた。
ただでさえ一回りも年の差があるのだ。そう、いつか弓月は私の元から去る。純を縛る呪いのような言葉。
誰かに言われたのではない。
純が自分で自分を戒めるが如く唱える呪文。
自分が傷つきたくないから。
自分を守るため。
それが何時しか小さな針となって心臓に突き刺さってしまった。
弓月に抱きしめられる度、その針は更に深く純の心臓を刺す。
こんな気持ち知らなければ良かった。何処かに捨ててしまえば楽になれる。わかっていても出来ない。
馬鹿らしいと頭を振り、気分を変えるためにラジオをつけた。
流れてくる音楽はピアノ曲だった。
不安定で触れてしまえば壊れそうな旋律。
「純ちゃん……?」
寝起きの掠れた声で名前を呼ばれた。
ベッドに歩み寄ると自然と腰に腕を回し抱きしめてくる弓月。
「この曲、なんか純ちゃんっぽい。なんて曲だろう?」
「ショパンのノクターン第1番」
「純ちゃんは物知りだね。俺もクラシック聴くことあるけど曲名まではわかんないや」
「この曲、私っぽい?」
確かに憂鬱で危うい綱渡りでもしているかの様なこの曲は今の自分にお似合いかもしれない。
「うん。透明感があって優しい感じ?」
お願いやめて。私はそんな女じゃない。
また胸に針が一本刺さった。










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