彼と彼女の再会【後編】


「すみません」
弓月は顔を上げて泣きそうな表情をしている。
なんでアンタがそんな顔するの?
純はイライラした。
「私が欲しい。その次はすみません。君、何がしたいの」
「家まで送ります」
「ふざけないでよ! 」
純は平手打ちをしようとしたが、それは呆気なく弓月が腕を掴み阻止された。
そのことにも純は苛立った。
しかし、弱気に見えた青年は豹変する。
「それはこっちのセリフ。一応、この顔で仕事してんの。もう少し頭の良い人だと思ってたんだけど」
先程までの柔らかな口調から一変して刺々しい言葉。
「な、何よ……」
「へぇーそんな表情も出来るんだ」
「そっちこそ、優男気取って本性はドSのサイテー男じゃないの! 」
その言葉を聞いた弓月は目を丸くして笑い出す。
「あははは。純さんサイコー! 」
「はぁ? 」
「うんうん。俺の勘はハズレじゃなかった。『純ちゃん』可愛いからやっぱり帰したくなーい」
「ふぁっ! 」
思い切り抱きしめられて変な声が出てしまった。
何なの?何なのこの男!
「泣き顔は俺以外の奴には見せちゃダメだからね」
純の背中をさすりながら頬にキスをした。
弓月に抱きしめられながらどこか心地良さも感じる。
抱かれると思った時は涙が流れたがそれは少し怖かったから。
弓月とのスキンシップは嫌ではない。
深い話をした訳でも長い時間一緒に過ごした訳でもない。
不思議な年下の青年。弓月。
「君は私をどうしたいの? 」
相変わらず弓月は純の背中をさすっている。
「君って呼ばれるのはちょっと寂しい。弓月って呼んでください」
そして一呼吸置いてぽつりぽつりと話し始めた。
「なんででしょうね。あんまり色恋には興味はないんです。純ちゃんもそうでしょ?同じ匂いがする。なんたってヤルことしたら俺のこと放ったらかしにしてライブ優先するんだから」
くすくすと肩を揺らし笑う。
「根に持ってんの? 」
「いいえ。仕事柄、俺の顔と身体目当ての女ばかりが寄ってくるんでウンザリしてたから純ちゃんみたいな頭良くて割り切ってくれるヒトは言い方悪いけど都合が良くて」
「ふーん」
言葉だけ聞いていれば最低の男だ。
でも純も恋愛には疲れていたしその気持ちもわからないでもない。
「でも、今日はしません。無理矢理するのは趣味じゃないんで」
弓月は純の顔にかかった髪を指に絡め頭に撫で付ける。
「行きましょう」
純をベッドから取り立ち上がらせ手に一万円札を握らせた。
「タクシー代。一緒にホテルを出るのは不味いから」
「そうね」
「ふふふ。やっぱり純ちゃんは頭良いから好きだよ」
弓月の『純ちゃん』と言う呼び方にムズムズしたが無視した。
バッグを持ち、ドアのノブに手をかける。
「また電話します」
その声に振り返ることなく純は部屋を後にした。








- 8 -
[*prev] | [next#]
[しおりを挟む]


[BACK]  [TOP]






人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -