最近バッツからやたら「好きだ」という言葉を聞かされる。スコールは半ばうんざりしていた。好意が重いわけでも煩わしいわけでもない。むしろ気持ちは嬉しいのだが、あまりにも軽々しく言われてしまうことが、少し悲しかった。特別な感情を抱いている側として、単なる仲間としてのその言葉は、尚更切ない。
 姿を見られれば絶えず接触され、その体温に幾度となく胸が高鳴った。だがスコールの気持ちなど露知らぬバッツに、それを悟られてはならないと、何度唇を噛んだことか。心無い言葉にも、その気のない接触にも、もううんざりだ。悪戯にこの心を揺さぶるなら、いっそ嫌われた方がいい。スコールは思い詰めつつも、突き放せない笑顔に奥歯を噛む。
「スコール!」
 戦闘のサポートを頼まれ、つい意気込んでアシストしてしまった。背後を取られたバッツの背に立ち、攻撃に攻撃を当てて相殺した自分の、いつにない気合いが恥ずかしい。だがポーカーフェイスでそれを隠し、名を呼ぶバッツに振り向く。
「さっきのありがとな。助かったよ」
「サポートを頼まれたんだ、当然だろう」
「おお!スコールかっこいい!」
 そんなお前が大好きだ!などとのたまいながら、抱きついてくるのを溜め息交じりに受けた。バッツは単にふざけてやっているだけに違いない。なのに自分は、それを解っていながらも毎回小さな喜びを見出す。あとに待つのは落胆だというのに、学習しない自分が腹立たしい。
 募り募ったネガティブな感情は、ついに溢れ出した。スコールは猫のように懐くバッツを押し退け、突き放す。失われた体温に寂しさを覚えながらも、これでいいのだと彼を見遣った。バッツは呆然としているようだった。
「もういい加減にしろ」
「え?」
「軽々しく好きだとか言うな。アンタには誰にでも言える当たり前の言葉かもしれないが、俺にとってはそうじゃない。もう振り回されるのは御免だ」
 溢れた感情は、饒舌な言葉となって口から零れた。これでも短いくらいだ。言いたいことは沢山ある。けれど全てを伝えるには、言葉も勇気も足りず形にならない。だが察しの良いバッツには、これで十分だろう。
 案の定、バッツは表情を曇らせて肩を落とした。次に来るのは、一体どんな謝罪か。いずれにしても、今の自分には痛いことに他ならないだろう。懐っこい彼に心のどこかで甘えていたのを、強く自覚している。もうそれも終わるのだと思うと、予想以上の心の痛みに泣きたくなった。
「俺は、誰にでも好きだって言えるほど、器用な男じゃない」
 そこへ零されるバッツの言葉に、スコールは一瞬、思考を止めた。予想していた沢山の返事やシチュエーションのどれにも当てはまらない一言。イレギュラーな場面に、感情すらも鳴りを潜めた。
「言葉ってさ、思ってる以上に数が少ないよな。何て言えばいいか解んなくて、とにかく好きとしか言えなくてさ」
 目線を下げたバッツの、甘い色をした目が殊更甘く揺らめいた。いまだ晴れない顔には、それでも淡い色を仄かに乗せて、スコールの視界に映る。見たことのない表情に胸がこれまでになく高鳴った。その期待する音に、思わず唾を嚥下する。
「愛してるって言うのは、まだ早すぎる気がするんだ。でも、言わなきゃダメか……?」
 いつになくしおらしく、気恥ずかしげに、上目遣いで以て、囁くように、バッツは言った。限りある言葉を尽くすよりも心に突き刺さるそれに、スコールは己の血肉が湧きあがるようだった。心臓が歓喜を叫んで早鐘を打つ。天にも昇る勢いで体温が上がる。今ここにある現実は、当たり前のことじゃない。






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