もはや気休めにしかならない焚き火で暖を取る。雪の降る地が近いせいか、そっと吹き抜ける風はそれでもやたら冷たい。風に揺らめく火は、やはり心許なかった。
「さっみーなぁ」
 バッツが呟いた。いつの間にか持ってきていた毛布に包まって、焚き火に手を伸ばしている。彼は仲間の内でも一層軽装なタイプだから、寒さが染みるのも致し方ないだろう。クラウドは「あぁ」とだけ返事をして、火の揺らめきを見つめた。
「クラウドは寒くねーの?」
「寒いに決まってるだろう」
「涼しい顔して言うなよ。しょうがないなぁ」
 何がしょうがないんだ、と言おうとして、顔を上げて止まる。毛布を広げたバッツに立ちはだかれ、クラウドは口を半開きにして呆然とした。
「よっと!」
 ばふっ、とバッツの腕とともに毛布に包まれて、冷気が遮断される。焚き火が毛布にあおられて激しく揺れたが、幸いにも消えることはなかった。何の悪びれもなく隣に座ったバッツの顔を見遣る。火に照らされた彼の、緩く細められた瞳の色は甘い。
「こうすれば暖かいだろ?」
 子供のように、それでいて大人びた眼差しで、彼は言う。クラウドは思わず苦笑を零した。彼は本当に、容易くしかも優しく心に入り込んでくる。そう感じるのは、もしかしたら自分だけかもしれない。それでも、それならば尚更、毒されている自分を感じる。ほだされ切っている。
 肯定の返事だけを返し、焚き火に向き直った。隣ではバッツが声なく笑っている気配。頬に当たる風は冷たいが、寒さは彼の小さな笑みに掻き消えたようだ。






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