「トリックオアトリート」
 突然言われた言葉に、スコールは半ば呆然とした。ハロウィンであることに、それに関わる言葉であることも知っているが、まさか彼が言うとは思わなかったのだ。手を差し出してくるクラウドに、スコールは逡巡する。
 ポケットに手を突っ込めば、先ほどバッツから貰った飴玉が一つ。これでいいかと引っ張り出しては、彼の手のひらに落とす。さっきは確認しなかったが、リンゴ味だった。
「……これだけか」
「そうだが」
「足りるか!」
 額に投げつけられる飴に、スコールは額に手をやった。痛みからではない。否、ある意味痛い。頭痛が鈍く響く頭を、手で押さえる。
「アンタは子供か」
「子供で結構。大体、アンタのほうが解ってないんだ」
 飴を拾いながら言うクラウドに、スコールは「はあ?」と返す。顔を上げた彼が飴を返してくるのを、眉をひそめて受け取ることしかできない。何が望みなのか、全く以て解りはしない。
 少し呆れ気味の眼差しに変わったクラウドが、その距離を詰めてくる。胸倉を掴まれてぐんと近づいたかと思えば、掠めるようなキス。
「悪戯してくれってこと、解れ」
 囁くような答えの後、クラウドはさっと踵を返して去っていく。背を見せたままひらりと手を振るのに、スコールは何も言えなかった。
(そんなの、解ってたまるか!)
 握り締めた手は、飴が溶けそうなほど熱くなっていた。






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