掴んだ左手の薬指には、刻まれたリングの跡がある。ラグナが誰とも知れない女と契りを交わした証。自分のものではない、自分のものにはなれないという証でもあるそれに、スコールは奥歯を噛んだ。これまでになく欲した相手がすでに他人のものだなんて、皮肉にも程がある。
 塗り替えることができたなら、どんなにいいだろうか。仮にラグナが自分の求めに応じたとしても、リングは渡せない。渡したところで、つけたところで、リングは正しく認識されないのだ。常識はリングに女の姿を見出そうとするのだ。
(常識なんて、くそくらえだ)
 手を引き寄せ、薬指を口に含む。その付け根に歯を宛がうと、思い切り噛んだ。
「―――いッ!」
 痛みに顔をしかめたラグナが、何事かとスコールを見る。戸惑いを露わにした、春緑色の眼。今だけは自分を映すその眼に、刹那の安堵を覚える。それも束の間、心を瞬時にして埋め尽くす虚しさに、苦虫を噛み潰した。
 欲しいと言ったところで、ないものねだり。ならば最初から求めなければいいものを、欲しがってしまった。常識が通用しないこの心が憎い。だがそれ以上に、想いが通用しない常識が憎い。
 リングの跡の上から刻み付けた、己の噛み跡。血の滲むそれはさながら赤いリングのようで、一瞬の恍惚を覚える。このまま一生の傷になってしまえばいいと思いながら、噛んだ感触の残る歯を舌でなぞった。






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