歪みに新たな人の気配が増え、スコールは眉をひそめた。イミテーションではないそれは、どう考えても同じコスモスの人間のものでしかなく、つまりは仲間。とはいえ行動を共にするつもりのないスコールにとっては、面倒なことに変わりはない。
 見遣れば、中でも五月蝿いほうに属する男が一人。ラグナがきょろきょろと周囲を見回していた。
「これはまた道に迷っているのかな?」
 スコールの存在に気付かないのか、腕組みしながら一言。その手には地図が握られているが、歪みの中では使えないことを理解しているだろうか。ラグナの方向音痴ぶりは折り紙つきだから、疑いたくもなる。
 しかしながら、ラグナが一人でいることに違和感を覚える。彼はいつだって他の仲間と一緒にいるからだ。己の他より一歩劣る戦闘能力を考えてのことかは甚だ謎だが、とにかく彼は誰かを連れていることが多い。むしろスコールが知っている限りでは、一人になった試しがない。
「まさか、ひとりになりたいという無意識の願望?」
 更なる独り言に、スコールは眉間のしわを深くさせた。仲間とともに語らい、笑い合うことを全身で楽しむ彼が、一人になりたいなどと、薄ら寒い発言だ。あまりに彼らしくない。冗談であろうと思うが、それにしたって聞きたい台詞ではない。
 人には一人の時間というものも大事だ。単独行動を好むスコールにとっては、尚のこと身に染みる。ラグナにとっても決して他人事ではないと思うが、それでも彼には“ひとり”を望んで欲しくない。押し付けがましい願望だ。
「……悪かったな」
 思わず己の存在を露顕させる。するとラグナはこちらを見、ぱっと表情を輝かせて大手を振った。
「おっ、スコール、いいところに!一緒に仲良く行こうぜ」
 こうでなくては、と思ってしまう自分に嘆息。ラグナと行動を共にしたいわけではないが、仲間を求める言動には安堵する。理想という型に当てはめて人を見るということの愚かさを解っているのに、この矛盾は一体どうしたものか。
 混迷を極めそうな思考に見切りをつけ、スコールはラグナに背を向ける。どちらにしろ、共に行く仲間を作る気はない。
「悪いが俺はひとりで行く」
 誘いを断ると、残念そうな声がひとつふたつ。背に受けて、スコールは顔だけで振り向く。
「―――が、……ここを出るまでは手を貸してやる」
 言葉を繋げると、しょんぼりした空気が一変、嬉しそうに駆け寄ってくるラグナ。まるで子供のようだ。どっちが大人でどっちが子供だか解らないと言われる彼だが、全くその通りだと思う。だがそれをも魅力に変えてしまうから、この男は恐ろしい。
 スコールはあからさまに溜め息を吐いて見せた。体ごと振り向き、向かい合ったスコールに、ラグナが首を傾げる。彼の言葉を待つ瞳に、ただ一言だけを告げた。
「必要な時だけ呼んでくれ」
 すぐ駆けつけてやるから、とは言わずに置いた。






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