手合せと言えど、本気で来いと言ったのは自分で、彼はそれに応えたに過ぎない。剣戟の鋭い音を間近に聞きながら、スコールは震えた。
 恐怖ではない。WOLの放つ鋭い切っ先は、確かに恐れ戦くに匹敵する殺気をまとっているが、それについてはもはや“慣れ”の域だ。ましてや手合せ、死を感ずることもない。
 WOLの剣舞が如き剣捌き。戦いの最中でありながら、洗練された動きは流麗で美しく、目を奪われる。イミテーションを相手にしていた時は、全く意識なかったの言うのに、本人を前にして気付く。
「―――どうした。動きが鈍ってきているぞ」
 鍔迫り合いの合間に言われ、ぐっと奥歯を噛む。言われなくても解っていることだ。闘うことに集中できなていない。
 攻撃を受け止めるばかりで、反撃へ移れない。一歩一歩追い詰められる己と、迫りゆく彼の気迫、その屈辱と恍惚の入り乱れる時の中。競り上がる感情が爆発しそうなる。
「終わりだ!!」
 背に壁を感じた瞬間に、告げられる時。耳をつんざく壁を穿つ剣の音を最後に、周囲は静寂に包まれた。
「―――普段とは動きが違っていたようだが」
 射抜くような目線が和らぎ、剣が抜き取られる。剣が光とともに掻き消える瞬間の言葉に、スコールは答えようとはしなかった。
 すでに平生の落ち着きを取り戻しているWOLだが、スコールはいまだ興奮冷めやらぬ中にいる。激しく波打つ鼓動は、何も手合せの疲れからではないことを知っている。上がっている息の意味など、いっそ知りたくもない。
「体調が悪いのならば無理せず―――ッ!?」
 胸元までまわっている外套を掴み、引き寄せると、噛みつくように唇を奪った。超至近距離で見る彼の眼は、驚きに見開かれ、瞳孔を収縮させている。
 唇を離した後も、言葉が出ないようだった。
「アンタとは二度と手合せはしたくないな。命がいくつあっても足りない」
 見惚れ、心奪われ、冷静と集中を欠いては、手合せと言えど洒落にならないことになる。ましてはそれもいっそ本望などと思っているようでは、尚更。
「それはどういう意味だ?」
 背を向き、その場を離れようとした際の、WOLからの問い。スコールは顔だけ振り向き、吐き捨てるように答えた。
「それが解ったら、また手合せしてもいい」
(最も、それどころではなくなるだろうがな)






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