夏の空の色が手の内にある不思議を、ニギハヤヒは一人抱えていた。否、それは己だけではないのかも知れないが、それを口にする者は周囲にいそうになかった。 「ぶるーはわい、というそうです」 「ぶるーはわい」 「不思議な響きですね」 隣でオモイカネが言う。彼の手にも同じ色。細かく削った氷が青く光っている。 ここのところ南蛮由来のものがよく見られるようになった。この”ぶるーはわい”とやらもそうだ。食べ物にしてはとんでもない青い色をしているが、甘くて美味しいらしい。名前からしても、とても甘そうには感じられないが。 「ぶるーが青という意味で、はわいとは南方にある島の名前だそうで」 「きみは本当に物知りだなぁ」 「聞きかじりなんですけどね」 言いながら、彼はざくっと容赦なく砕氷の山に匙を刺した。そして物怖じすることなく口に運ぶ。小気味の良い咀嚼音。やがて上下する喉。 「確かに甘くて美味しいですね。見た目が奇抜で困惑しますが、慣れてしまえば何ということはない」 肝が据わっている。彼は、今も昔も。 しゃくしゃくと食べ進めるオモイカネを横目に、ニギハヤヒも腹を括る。一等青い頂点に匙をそっと刺し入れ、己の口へ。冷たい、甘い、未知、だが美味。 ニギハヤヒは頷いた。食べる前は甘いと言われてもどんな甘さなのかと思っていたが、実際に舌に乗せてみれば砂糖水とそう変わらない。それもそうか、食べ物だ。口に含んだ瞬間は甘すぎではと思ったが、やがて氷が溶けるとほどよく中和される。良くできている。 「これを食べると、舌に色が移ってしまうらしいですよ」 「えっ」 それはちょっと嫌だな。そう思った矢先に、オモイカネが見透かしたように「ふふ」と小さく笑う。綺麗な弧を描く唇は温かな色をしているが。 「どうです、青くなってますか?」 口を薄く開いてちらりと見せてくる舌先は、確かに色移りして何とも言えない色をしてしまっている。だが、それよりも、それよりも、だ。 「……そういうことをされるのは、何というか、困るな……」 ニギハヤヒは堪らずオモイカネの口元を手のひらで覆う。一瞬きょとんとしたオモイカネだが、すぐに目を細めて微笑みの眼差し。目は口ほどに物を言う。何考えてるんですか、と言っている。時折見せられるほんのりとした意地悪が、ああ、嫌いじゃない。 口の塞ぎ方、違うんじゃないですか、などと宣うから、その続きはまたあとで、とだけ返しておいた。 |