今夜もバルドルを自分の寝台に誘う。理由は彼を眠らせるためだ。星晶獣も睡眠は取るらしいが、放っておくと外壁におざなりに寄りかかった体勢で眠ろうとするので、マドルはいつしか彼を自分の寝台に呼び込むようになった。最初のうちはそこまでする必要はないと突っぱねていたが、心配になって俺が眠れなくなるから、と言ってしまえば、優しい彼は口を閉ざしておとなしく手を引かれた。
 今ではもう寝ようと声をかけるだけで部屋までついてくる。寝台に上ることだけはいまだに最後の砦のように逡巡するが、来るようにと床を叩けば素直にそこに腰を下ろした。
 バルドルはまとっている鎧をひとつひとつ外していく。毎日、日がな一日つけているそれを、いつだったか重くはないのかと聞いたことがある。特に重みは感じないとの答えに、軽い素材なのかと持ち上げてみたら、普通に重い金属製だった。加えて剣に盾をも携えて戦場を疾駆るのだから、星晶獣はやはり人とは違う。
「……狭いんじゃないのか」
 ともに横たわり、毛布をかけた矢先に、バルドルが溢す。マドルはきょとんとその灰緑色の瞳を見つめた。
「人ひとりが眠るのに必要最低限の広さでもって作られてるんじゃないのか?」
「ああ、ベッドのこと? まあそうだと思うけど、どう使うかは使う人の勝手だろ。お前そんなに幅取らないし。平気だよ」
 その金の髪を掻きあげる。バルドルの眼はそれでも納得の行かない色をしていたが、反論はなされなかった。
 嘘は言っていない。星晶獣である彼の鎧の下の体躯は、ただの人間のマドルよりもいささか細身だ。戦場での獅子奮迅を鑑みれば、驚くほど細いと言っても過言ではないだろう。威風堂々とした雰囲気も、今となっては半分くらい鎧ありきだなとも思う。
 それだけ繊細な造りをしていると思ったのだ。彼の肉体は、少なくとも見た目は細部まで人と変わらない造りをしていて、歪みのない姿形にかえって作り物めいたものを強く感じる。星の民という某かの意思が造り上げた被造物なのだと確信めいて理解してしまう。分かりきっていたはずのことを。
 そう実感しながらも、揺らぐ。彼の髪の柔らかく跳ねるのを梳くとき、肌の感触や体温を感じるとき、表情をわずかに緩めるとき。同じものであるかのような錯覚に包まれる。あまりにも人に酷似する、姿を模した何か。別の形をしていれば、自分も彼も情やそれに類するものを抱かずに済んだだろうに。
「それにさ、こうしてると温かいから、よく眠れる」
 バルドルを抱き込む。寝ている間に逃げられたりなどされたら嫌だと思ってしたことが、今や習慣となっている。朝になれば腕はほどけているし、彼がきちんと寝ていたかも分からない有り様で、それでも彼はそこに居てくれるが。自分が安心したいばかりに、止めるつもりなく続けている。
「……そうか」
 安堵の吐息のような返事をして、バルドルは眼を閉じた。まるで人形のように隙のない顔。いつか穏やかな寝顔を見られる日が来るだろうか。この先、百年かけたって叶うことはないかもしれないが。
「おやすみ、バルドル」
 彼の額にそっと唇を寄せる。せめてもの安寧を願う。
「ああ、おやすみ、マドル」
 寄越された返事は逆に言い聞かせられているように聞こえて、少し悲しかった。






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