「わ……!」
「おっと」
 強い風が吹いた。煽られてよろけたオモイカネを、ニギハヤヒは己の胸で受け止める。そしてそのまま腕の中に収めた。
「大丈夫かい?」
「はい。ありがとうございます」
 返事をしながら顔を上げる彼の、柔らかな髪に桜の花弁。こめかみの辺りに髪飾りのようについているのに、思わず笑みを零した。
「花びらがついてる」
 取って見せてやると、少し恥じらい気味に笑んでは髪を掻き上げる。その毛先が風に踊った。
 また、強く吹いてくる風。ひととき強く目を閉じた彼が、ゆるりと目を合わせながら言う。
「これは、春一番ですねぇ」
 幼気に笑む唇に見惚れた。風が疾くより速く、この心を奪う花。
「……なるほど、春一番か」
 オモイカネの呟きに、ニギハヤヒはひとり納得する。この春も一等彼が愛おしい。桜花も霞む微笑みが、一番。






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「見えない臓器の名前は」
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