珍しく酒の盃に口をつけたかと思えば、そうそうに潰れてしまったオモイカネを、アメノワカヒコは介抱していた。とはいえ、すやすやと寝てしまった彼を、己の膝枕で寝かせたままにしているだけなのだが。時折、伺い見る彼の寝顔、もとい顔色は、始終ほど好い血色だった。 よく寝ている。宴会の馬鹿騒ぎをものともせず。幼さの感じられる寝顔を晒して気持ち良さそうに。他の誰も彼の無防備な姿に関心を示さないのをいいことに、アメノワカヒコは堂々とそのひと時を独り占めした。 こんなに可愛らしい彼の姿を見つめていられるとは。柔らかな髪をそっと撫でながら、盃を傾けつつ、声を出さずに笑う。こんな至福の時間を味わえるなら、毎回呑ませてしまいたい。きっと彼は醜態を晒すのを恥ずかしがって嫌がるだろうが。 そうしてオモイカネの寝顔を肴にちびちびと酒をあおっていると、やがて彼が目を覚ました。ゆるゆると瞼が持ち上がる。あらわになった瞳は、まだ酔いが醒めていないかのようにぼんやりとしていた。 「……あめのわかひこさん?」 「目が覚めたかい?」 問うと、彼はどこか甘ったるい声を漏らして、重たそうな瞬きをした。 しどけない姿が妙に艶っぽい。ただ酔っていて頭がうまく回っていないだけなのは分かっているが、それにしても気怠げな様子から放たれる色の芳しさ。 かといって手を出せるわけもなく。引き続き彼の頭を撫でて己を慰める。心地好い感触。まるで羽毛のように指先を温め、喜ばせてくれる。 果たしてオモイカネは自分の状態を分かっているのだろうか。アメノワカヒコの手の平の中で、気持ち良さそうに、幸せそうに、表情をとろけさせる。頬が甘く染まっているのは、酒のせいかのか、それとも。 「……オモイカネ殿」 「うん……?」 前言撤回。彼に酒を呑ませるのはあまりよくないかもしれない。アメノワカヒコは己の膝枕でふわふわしているオモイカネを見下ろし、沸き上がる感情を必死に押し殺した。 |