戯れが戯れを呼んで、ヤマトタケルとオモイカネが揃って唇を紅くしている。玉虫色の紅を見つけてきたのはオモイカネだったが、それを溶いて唇に塗ったのはヤマトタケル。いずれの男も美顔であるが、普段の出で立ちにその口元は些かの違和を放った。
「ほら、ご覧なさい。主さんが呆れていますよ」
「そうか? オレたちの美しさに言葉を失っているだけだろ」
 残念ながら、そのどちらでもない。二人が見惚れるほどの相貌であることは既知で、今更口の紅ひとつでどうこうなるものではないと思うのが正直の所。それよりも、だ。
 中性さを内包した花顔を突き合わせ、囁き合うように、じゃれ合うように、戯れる様を見せられた。その溜め息の出るような甘い景色に、浮かぶ言葉が次から次へと溶けていく。普段の装いであることが、なおのこと背徳めいて甘さが増した。
 仲良き事は美しき哉。言うと、額面通りに受け取ったオモイカネが苦笑し、その裏を読み取ったヤマトタケルが不敵に笑んだ。
「なるほど。主はこういうのがご所望か」
 そう言って、ヤマトタケルが隣のオモイカネを抱き寄せて、紅い唇を重ね合わせる。突然のことに目を白黒させて固まるオモイカネ。それをいいことにヤマトタケルは抵抗のないオモイカネの手を取り指を絡ませた。
「ーーっ、な、何を……!」
 やがてオモイカネは気がついて、弾かれたように身を放そうと顔を反らせた。だがヤマトタケルがその後頭部に絡めていないほうの手をやり、逃げるのを阻む。
「こら、逃げるな。主は“こういうの”を見るのが好きらしいんだ。大人しくしてろ」
「そんな莫迦な、んっ」
 目に見えて、ヤマトタケルの紅い唇がオモイカネの紅い唇に吸い付いた。それにふわりと頬を染めたオモイカネが、縋るように指の絡み合う手を掴む。オモイカネの困惑に震える睫毛を、ヤマトタケルがねぶるように見つめた。
 倒錯するような光景に、目を閉じることも覆うことも出来なかった。戯れを越えた睦み合いに、今度こそ言葉を失う。先のヤマトタケルの言葉を肯定せざるを得ない状態だ。
 ようやく唇を解放されて、ヤマトタケルの肩にもたれかかるオモイカネ。彼を受け止めたヤマトタケルが、首元の柔らかな髪に頬を乗せながらこちらを見て婉然と笑んだ。
「満足したか?」
 問われるまでもない。返事の代わりに深い溜め息を零すと、ヤマトタケルはくつくつと笑う。その腕の中でオモイカネが疲れた顔をしていた。






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