新月の夜だった。月の神殿はいつになくひっそりと、どこか悲壮感すら漂わせながら宵闇に佇む。その暗がりに響く、むせび泣くような声。ニンアズは己の手が震えるような心持に息を潜ませ、兄の居るであろう部屋の扉を開けた。 僅かな灯りにようやく映る姿が、びくりと震えるのが見えた。転がった銀の錫杖が、どこか無残。そして闇に背を丸めるシン。風が吹いただけでも壊れてしまいそうなほどの儚さで震える姿に、思わずたじろいだ。 突然の弟の姿にまるで恐怖を覚えたかのように、シンは小さな声を上げた。彼が最も見られたくなかったものを、今自分は目の当たりにしてしまっているのだろう。兄として、弱い姿は見られたくなかったに違いない。 意を決し近づく。距離を詰めるにつれて見えてくる真相。月の満ち欠けによって気分が左右されることがあると言ってはいたが、その時のどこか軽々しい口調では考えられない不調ではないか。 「ニンアズ……」 か弱い声で名を呼ばれる。鮮烈な色の瞳からは絶え間なく涙が零れ、生白い頬をしとどに濡らした。青ざめたように見える唇が戦慄いている。銀の髪が放つ悲哀。己の身を抱く腕の細さ。ニンアズは胸が痛む思いがした。 思わず掻き抱いた痩躯。耳元の吐息は嗚咽に震えて苦しげ。強張った体が弛緩することはなく、この腕の中で頑なに脆い心を守っていた。 |