紅香る秋の夕間暮れ。燃ゆる紅葉が景色を染める。 神籬の姿を探して山間を歩いていると、ふと美しい笛の音が聞こえた。はてどこからかと音の行方を探すも、その音はなし。だが倭音には確かに聞こえた気がして、誘われるように奥へと進んだ。 やがて殊に大きい紅葉の木が現れ、その太い枝に探していた姿を認めた。 「神籬」 呼ぶと、彼は柔らかく微笑んだ。 「ああ、倭音殿。よくここまで来ましたね」 「ん、まあなぁ」 葉のひとひらが舞い散るがごとく地に降り立った神籬。その腰元には以前に彼に贈った笛が差し込まれていた。まだ使い込まれていない、真新しいばかりのそれ。 先の音色は彼が吹いていたからだろうか。とは一瞬思ったものの、すぐに否定する。贈りはしたが、彼はまだお世辞にも美しいと言えるほどの技量は持ち得ていないからだ。 ということであれば、あの音は何者によるものなのだろうか。こちらへと歩いてくる神籬は、何か知っているだろうか。 「どうかしましたか?」 何か言いたげに見えたか。首を傾げる神籬に、倭音は首を横に振って問うことをやめた。 「何でもないで。ほな、帰ろか」 はい、と頷いた神籬とともに、来た道を戻る。紅葉のささめく中を歩きながら、倭音は神籬の笛を盗み見た。お前が呼んだのか。問うても答えはないが、それにても笑みを禁じ得なかった。 |