アズマのダイオモの場合:ひなたぼっこをする猫を見つけて一緒によしよしと撫でて、ひとり占めしたいと指を絡めました。
#ほのぼのなふたり
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 社は悪霊の侵入こそ許しはしないものの、それ以外に関しては笊だ。さすがに人は近寄ってこないが、獣はよく侵入してくる。獣と意思疎通の取れる英傑がいるお陰で、作物の被害というものはないが、それにしても結構我が物顔の奴がいたりする。
 海に面した階段に、猫が寝ていた。ダイダラボッチが近くに来ても、一瞥するだけで身を起こすこともしない。四肢をだらりと伸ばして、いい気なものだ。
 さすがに傍に座れば動くだろうかと思ったが、そうしても全く動じない。頭を撫でてみれば喉を鳴らす始末。人馴れした、人懐っこい猫だ。可愛くなってしまって、そのまま撫で続けた。
「どうかされました?」
 背後からの声に、ダイダラボッチは首だけで振り向く。オモイカネが近くまで来ていた。
「そこでは貝は採れないと思いますが」
「えっ、馬鹿にしてんの?」
「ふふっ、冗談です」
 オモイカネはくすくすと笑う。無邪気な笑みが少し眩しい気がするのは、太陽のせいだろうか。
「ですが、海を見ながらぼんやりしているように見えたので、気になって様子を見に来てしまいました」
 そう言って、彼は膝に手をついて身を屈める。その目線は猫に行った。
「別に、猫撫でてただけだけどな」
「ええ、そのようですね。随分と人馴れしているようで」
 猫がまるで返事をするように短く鳴いた。ダイダラボッチにはそれがオモイカネにも撫でてくれと催促しているように感じられた。
「撫でてやれよ。なんかアンタにも撫でてもらいたそうだし」
「そうですか? では、少し」
 オモイカネは膝を曲げて座り、猫に手を伸ばした。
 鼻先にやった指先を、猫がにおいを嗅ぐ。そして撫でろと言わんばかりに額をその手に摺り寄せた。オモイカネはそれに目を細めて、猫の頭に手のひらを置く。額を撫でたり、耳の裏をくすぐったりすると、猫はうっとりと目を閉じた。
「可愛いですね。動物には癒されます」
 オモイカネの幸せそうな横顔。その下で猫が喉をくすぐられて恍惚の体勢だ。野生をどこにやってしまったんだと言いたくなる有様だが、何となく気持ちは分からないでもなかったりする。彼にそのように撫でられては、溶けてしまいたくもなるだろう。
 いつもは凛とした彼が、背を丸め、膝を抱えて猫を撫でている。その様が可愛く見えて、頭を撫でてみたくなった。実行したらどんな反応をするだろう。好奇心にも背中を押されて、手を伸ばした。
 わ、と彼は小さく驚く。だがダイダラボッチはお構いなしに頭を撫でた。その髪は足下の猫と似て柔らかく、指通りも滑(すべ)らかだった。
「あ、あの、ダイダラボッチさん……?」
「んー?」
「何故、私の頭を撫でるのですか……」
 戸惑いながら問うてくるオモイカネだが、満更嫌でもない様子。ただ恥ずかしいのか、ほんのりと頬を染めた。
「撫でたくなったから」
「それは、そうなのでしょうが……」
 正直に答えたつもりだが、彼からすると納得のいく答えではなかったようだ。だが、まぁ構いませんが、と続けて、猫に向き直り為すがままとなる。
 足下にはさらに為すがままの猫と、隣にその猫の手をむにむにしているオモイカネ。その時間をもっとずっとひとり占めできたらいいな、とぼんやりと思った。






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