貴方は暇だったら『欲しいものない?ってきかれてお前って答えちゃうアズマのヤマオモ』をかいてみましょう。幸せにしてあげてください。
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「今日……」
 唐突なヤマトタケルの発言に、オモイカネは読んでいた本から目線を上げた。当のヤマトタケルはぼんやりとテレビを見ている。
「次のプロジェクトのリーダーに抜擢された」
 淡々と顔色を変えずに言うものだから、こちらもそうですかと簡単に流しかけた。
「すごいじゃないですか」
「別に。面倒なだけだし」
「またそんなことを言って。昇進への大事な一歩ですよ」
「昇進したいわけでもないしなぁ」
 責任増えるし、との言葉の裏に、面倒だと言う気持ちが明け透けに見える。横顔はどことなく不機嫌だ。野心がない質というわけではないのだが、よく分からないところで欲に欠けるところがあり、なかなか読めない男である。
「私は、そうなったら嬉しいですけどねぇ」
 閉じかけていた本を開く。ヤマトタケルからちらりと視線を向けられた気がしたが、気付かない振りをした。
「……そう簡単にできるものじゃないだろ」
「分かりませんよ? 貴方は何だかんだ言ってできる方ですから」
 盗み見たヤマトタケルの表情は特に変化はないが、機嫌が治ったのが分かった。読めない男ではあるが、こうして素直で分かりやすいところもある。この憎めない部分が妙に可愛らしくもあり、オモイカネは声に出さずに口元だけで笑った。
「では、今後やる気が出るように、御褒美をあげましょう」
 ふと思い立ってした発言に、ヤマトタケルがこちらを振り向いた。
「何がほしいですか?」
「……お前」
「えっ?」
「お前がほしい」
 予期せぬ返答に、オモイカネは一瞬、思考を停止させる。無論、想像していたのは物であるとか、あるいは何かしらの行為であろうということ。まさか人を、ましてや自分を求められるとは思わなかった。
 ある意味、行為を求められているのかもしれない。言葉の意味を考えてみれば、おおよその人が口にしづらい答えを導き出すだろう。彼の考えていることが、必ずしもそうとは限らないのだが。
「……その程度のことで、私を求められては困りますね。私はそんなに安くありませんよ」
 ぼやかした返事をすると、ヤマトタケルはわかりやすくわざとらしい舌打ちをした。
「ちっ、やっぱりだめか」
「というか、よくそれで釣れると思いましたね」
「釣れるとは思ってないさ。でもあわよくばとは思った」
 全く正直である。いけしゃあしゃあと答える様は、いっそ清々しい。
 未練を見せる様子もなくテレビに向き直るヤマトタケルを見、オモイカネは持っていた本を閉じて脇に置いた。空いた手で彼の頬を包み、引き寄せて、そっと視線を奪う。ほんの少し驚いた眼が、オモイカネを見た。
「ご褒美をあげると言った手前、断り切れませんので、唇だけはあげましょう?」
 そう言って、ヤマトタケルの無防備な唇に唇を寄せる。ゆっくりとした瞬きの時間の分だけ、触れ合わせた。
 離れると、今度はヤマトタケルのほうから追いかけるように唇を吸われる。啄むような口付けの最中に、服の裾から手を入れられて直に肌に触れられる。オモイカネは身を捩って逃げようとした。
「ちょっと、やめてください。そこまで許してないですよ」
「いいだろ。出世払いしてくれよ。これから昇進してやるから」
「嫌ですよ。私は成功報酬型なんです」
「けちけちするな。俺を信じてないのか? できる男なんだろ?」
「もう、調子の良いことを言って……」
 応酬の間も、ヤマトタケルの手の侵入は止まらず。思わせぶりに胸元を撫でられて、オモイカネは息を詰まらせる。
 本をきりのいいところまで読み進めたかった。と素直に言っても、彼が聞き入れてくれることはないだろう。せめてベッドに、と囁くと、彼はしょうがないなと笑ってこの身を抱き上げた。






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