貴方は暇だったら『寝ている相手のおでこにチューしているヤマオモ』をかいてみましょう。幸せにしてあげてください。
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 ヤマトタケルが起きてこない。
 というのは彼の質からしてよくあることなので、いつもならば気にすることではないのだが、今回ばかりはそうとも行かなかった。これから向かう遠征には剣士である彼の力を借りたいという独神の意向により、彼は隊の一員として組まれている。そういうわけで彼の起床を待っているのだが、待てど暮らせど冒頭の状況で、予定の出発時刻を過ぎてしまった。
 これ以上はさすがに待てない。オモイカネは仕方なしに、ヤマトタケルの部屋へと向かった。寝坊助を叩き起こしてやらねばと、了承も得ずに障子を開ける。声をかけたとて、どうせ寝ていて返事はすまい。案の定、部屋の真ん中の布団がこんもりとしていた。
「ヤマトタケルさん、起きなさい!」
 声を荒らげながら掛け布団を剥ぎ取ると、ヤマトタケルは背を丸めて不機嫌な唸り声を上げた。
「……うるさい」
「いい加減になさい。昨日、主さんに遠征を命じられたでしょう。もう忘れたんですか?」
「あ?……、ああ……」
 言われてようやく思い出したのか、不機嫌ながらも納得して、渋々といった様子で身を起す。だが胡坐をかいたまま欠伸だけをしてなかなか動き出そうとせず、オモイカネは溜め息を吐くしかなかった。
「早く目を覚まして、身支度を整えてください」
 膝をついて肩を揺さぶってみるも、「んー」だの「あー」だのしか言わず、反応が悪い。どれだけ寝坊助なのか。分かっていたつもりではあるが、呆れてしまう。
 座ったまま寝ようとしてしまうヤマトタケルに、オモイカネは再度溜め息を吐いた。いっそのこと彼など放っておいてしまいたいが、独神の意向を無下にすることは許されない。意地でも彼を連れて行かねば。
「……ヤマトタケルさん、起きてください」
 言い聞かせるように囁きながら、普段は鉢巻きに隠されている額に唇を押し付けた。
 そうして見下ろしてみると、やけに驚いた彼の目と目が合う。その反応にオモイカネも少し驚いてしまったが、抜群の効果に心中で自賛した。
「やっと起きましたね。さぁ、支度してください」
「あ、ああ……」
 戸惑い気味な返事をしつつも、着替えを始めるヤマトタケル。てきぱきと身支度を整える様子に一先ずの安堵を覚えながら、蒲団を押入れにしまってやった。
 そして最後の鉢巻き。何故か逡巡して締めようとしないのを、オモイカネはどうしたのかと覗き込む。彼はちらりとオモイカネを見、そこから視線を泳がせて、またオモイカネを見た。
「なぁ、さっきのもう一回やってくれよ」
「さっきの?」
「額にやったヤツ」
「ああ……」
 物欲しそうな子供のような顔で求めてくるのに、オモイカネは濁った返事をした。あの程度のこと、いくらしてやっても別に構いはしないのだが、何となく思い留まる。
「そうですね。遠征が無事に終わりましたら、して差し上げましょう」
 手から鉢巻きを取り、代わりにつけてやる。軽く舌打ちをされたが、小さく笑って受け流した。






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