粟田口のところなど知ったことではない宗三だが、刀に兄弟などとは名ばかりだと思う。殊に左文字はそうだ。弟にあたるらしい小夜の生い立ちも知らなければ、兄にあたるらしい江雪の素性も知らない。ただそれぞれの力は理解していた。復讐を謡う小夜の程度も、和睦を囀る江雪の底知れなさも。
 宗三はむしろ織田家にともにいた薬研や長谷部のことの方が詳しい。何せ一時期にしろ共に暮らしていた。互いに拾い合えた素性などただの上澄みかもしれないが、それでもだ。本丸で初めて会ったような兄弟よりよっぽど馴染みがある。国広のところはどうだか知らないが。
 だが皮肉なことに、人の身体を得たこの身の、互いの顔はどこか似ていた。雰囲気というのだろうか。作り手が同じ筋というものが、よもやこんな形で現されようとは、半笑い程度の面白さだ。嘲笑にも似たものが口から零れる。
 見下ろした兄の顔(かんばせ)。怖しいくらいに美しい彼の髪が、歪な扇を描く。暗い色をした眼は、日の光を得て蒼く揺れる。雪の字を冠する名のままに、哀れなほど白い頬。申し訳程度に差す赤みなど、頸を掴めば瞬く間に失われそうだ。簡単に手折れそうなほどに細い体躯は、いっそ忌々しいほどにこの身に似ていた。
「宗三、一体何を……?」
 悠然とした喋りは、似ない。与えられた色も似ない。何を以てして兄弟なのだろう。作り手など、交わり腹を痛めたわけでもあるまいし。
「僕たち、兄弟らしいですね」
「えぇ。それがどうかしましたか」
「……何とも思わないんですか?仮にも弟に組み敷かれて」
 危機感も嫌悪も覚える様子のない江雪に、宗三は笑みつつも眉を顰めた。人の世を知らないのか、それとも兄弟ということを真に受けて安心しているのか。
 頬を撫ぜた。汚れを知らぬかのような肌理細やかさだ。やけに着込んだ服の下も、営みを知らぬ肌であるならば、暴いて奪って喰らってしまおうか。懸想など抱いていないが、欲を掻き立てるものが、この兄にはある。
「もっと危機感を、持ちましょう?食べてしまいますよ?」
 挑発に、江雪は何も答えなかった。一つだけ、溜め息にもならないほど小さく息を吐いた。






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