「やぁ、いらっしゃい。待ってたよ」
 彼はゆったりと笑んだ。神殿に差し込む月の光をそのまま編み上げたような髪が、儚げに煌く。唇は慎ましやかに弧を描くが、白磁の頬は溢れ出る嬉々に、紅を乗せたように華やいだ。女神に勝るとも劣らぬ美しさ。
 無論、彼は神である。暗き天面に揺蕩う月を象徴する神だ。故にヴェールを纏った姿は朧月も斯くや。手の指先、足の爪先まで清廉潔白で有りながら、その反面、淫靡な色も放たれている心地がする。二面性を超えた多面性は満ち欠けを繰り返す為、と笑った顔は悪戯で無邪気で強かだった。
 そんな彼に誘われてやってきた、彼を祀り上げるための神殿。地上での彼の住まい。通い慣れた石造りの佇まい。
『君と月を眺めたいんだ。一番綺麗に見える場所で、一番綺麗な月を用意するから』
 だめかな、と少し眦を下げた彼に、首を振った。断る理由などない、あろうはずがない。
 伸ばしてきた彼の手を取る。いつものごとく冷たい手だ。両の手で包んで温めてやると酷く喜ぶのが常だが、今夜も例外ないようだ。手に手を重ねて、目元を蕩けさせた。
「君に触れられると、心も体も温かくなるよ。不思議だな。自分のこの体がこんなにも温もりを持つことができるだなんて思わなかった」






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