薄く水の張った地に、小さな水しぶきを上げて着地する。貫き砕いたイミテーションの残骸が雪のように降る中、踵を返しこちらを向いたのを、憧憬と恋情の想いで見つめた。
 秩序の女神、コスモスに忠誠を誓うWOLは、その揺らがぬ意思により仲間たちの中心的存在となった。そういった人間には、人気がある、華がある、などと言った理由も挙げられるが、彼は全てに当てはまるようで少し違う。圧倒的存在感がある、とでも言ったほうが適当だろう。
 弱点のない能力と強さ、敵に引けを取らぬ目力に、際立つ見目の美しさ。最初に見た時の胸を打たれた感覚は、今も覚えている。怒涛のように押し寄せた憧れの想い、そしてその濁流に紛れ込んでいた恋情。フリオニールは心中で嘆息する。
「大丈夫か、フリオニール」
 歩み寄ってくるWOLに、フリオニールは頷いた。無事を確認して、彼の目付きがほんの少し緩んだのに、どうしようもなく甘い感情が湧く。微かな優しさを湛えた銀灰色の目に見つめられ、顔が赤くなりそうだ。
「では、先を急ごう」
「あぁ、そうだな」
 何食わぬ顔をして、同意する。背を向けて歩き出したWOLから、すっと目を逸らせては溜め息を飲んだ。決して届かぬ想いに、身も心も潰れそうになる。もっと近づきたい、触れてみたい、あわよくば触れられたい。口にはできない欲求が膨らむ。
 迷うことなく先を進む大きな背を、今はただ追うことしかできない。前に立つことはできなくていい。せめて隣に立てたらどんなにいいか。彼の背を守れる人間になれたら、どれだけ幸福だろうか。
「ライト……」
 思わず、声が零れた。掠れるほどに小さな声だった。だが前を歩くWOLが振り向く。太陽を背にこちらを見る彼。眩しさに、恋しさに、細めた眼から涙が零れそうだった。






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