夜の訪れない世界にいる。だが月の渓谷と呼ばれる空間は、常に夜だ。 散りばめられた星と大きな月の下で、フリオニールは武器の手入れをしていた。光の乏しい場所での作業は目を悪くする、と誰かが言っていたが、たまにはいいだろうと独断。月の光を反射する武器は、普段とは違う顔を見せて楽しかった。 「武器の手入れか」 不意に背後から声をかけられ、フリオニールは顔を上げた。声からしてクラウドだ。振り仰ぐと、彼がいつもの澄ました顔でこちらを見下ろしていた。 「あぁ、なるべく小まめに手入れしないとな」 「お前は扱う武器の数が多いから、大変だな」 「はは、そうだな。仕方ない、自分で選んだ道だ」 確かに大変ではあるが、苦だと思ったことはない。己の扱う武器には愛着が湧くもので、大事にすればするほど、手にしている時間が愛おしくなる。きっと武器を手に戦っている者は、誰しもが解ることではないだろうか。 「背中、借りていいか?」 半ば夢中で剣を磨いていると、クラウドから珍しい求めがあった。理由は全く思いつかないが、断ることもない。二つ返事で快諾した。 そうして振り向くことなく、剣の輝きを確認していると、背に予想外の負担がかかった。背中全体にかかる重みと、温かさ。脳裏を過った予想が外れてなければ、自分は今、クラウドに寄りかかられている。 確定したわけではないが、己の予想に、途端に体温が上昇した。どこか触れがたい空気を持つ彼からの、想定以上の接触。甘えにも似た行為に、興奮を禁じ得ない。 「あ、邪魔か?」 身じろいだのを誤認され、クラウドが少し身を離した。失われた体温に、フリオニールは慌てて首を振る。 「いやっ、違う。少し驚いただけだ。気にしないでくれ」 早口気味に返事をすると、クラウドは「そうか」とだけ答えて、再び背を預けてきた。背に伝わる体温から感じ取れる、親愛と信頼。沸いてくる嬉しさや喜びに安堵の思いも混ざって、フリオニールはひと時、目を閉じる。 鋭く磨かれた剣の刃に微かに映る金髪が、愛おしい。 |