「はい、テスト返しまーす」

 恒例行事、中間テストの返却が行われた。今返されているのは英語のテストだ。田沼の最も苦手とする教科のため、普段以上に覇気のない顔で解答用紙を受け取った。
 自席に座り、そっと用紙を見る。右上に赤ペンで大きく書かれた数字に、深く長いため息を吐いた。どう考えても最初から数えたほうが速い値。とてもじゃないが親には見せられない。幸い自分の父親はテストに煩くない人だが。

「たーぬまっ」

 横から北本のタックルを受け、田沼は椅子に座っていながら少しよろけた。そのまま肩を組んでくる彼の手には、同じように解答用紙が握られている。

「なぁ、いくつよ?」

 にやり、と擬音が聞こえそうなほどの笑みで尋ねられる。田沼はあまり思わしくない数字に口を尖らせた。

「……秘密」

 中途半端な数字は口にするのも憚られ、田沼はふいとそっぽを向いた。すると北本は、ほーへーそーですかー、などと何やら呟いて、ぱっと田沼の手から解答用紙を奪った。

「あっ!」

「ははー、相変わらず英語は微妙だな」

 したり顔で笑う北本に、田沼は何とも言えない顔になる。まるで舐めるように解答を見続けるものだから、少し手荒に用紙を取り戻した。

「仕方ないだろ。苦手なんだよ。そう言う北本はどうなんだ」

 半ば挑発の気持ちで尋ねると、北本は不敵に笑いだす。思わず田沼は怪訝な顔をした。

「ふっふっふ……。見ろ、このおれの実力!」

 自信満々に見せ付けられる北本の解答用紙。その右上にはなかなかに高得点といえる数字が書き込まれていて、田沼は愕然とした。

「ま、負けた……」

「どーだ、参ったか」

 誇らしげに胸を張る北本に、田沼は妙な悔しさでに口を引きつらせる。しばらく見合っていたが、田沼はやがて肩の力を無理矢理抜いた。

「いいよ、他の教科では勝ってるから……」

 自分を慰めるために呟いた言葉だったが、北本に絶大なダメージを与え、彼の余裕綽綽だった表情をも崩させた。

「く……!おのれー!」

「ほらそこ、席つきなさい。答え合わせします」

 先程とは打って変わって悔しげに睨んでくる北本に、田沼は少しだけ笑って席についた。





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二人の成績水準はご想像にお任せします。






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