今日も静かな部活動が終わった。最初こそ単純な知的好奇心のみで入部した茶道部だったが、なかなかに面白みがあって田沼は気に入っていた。今だに着慣れない和服も、元より激しい動きなど体育の時でさえもあまりしない田沼には、何ら問題はない。
 広げた茶器を片付けようと腰を浮かしかけたとき、不意に横から部の先輩が膝を滑らせて寄ってきた。がし、と肩を掴まれ、田沼は腰を下ろした。

「ちょっと上手くなったんじゃないの?田沼くん」

 わざとらしく君付けで呼んでくる先輩に、田沼は力なく笑った。

「そんな、先輩ほどじゃないですよ……」

「いやいや、大したもんだよ。なぁ?」

 先輩が隣の後輩に話を振ると、後輩はこくこくと頷いて肯定する。

「はい!田沼先輩カッコイイっス!おれも先輩みたく出来たらなぁ」

 憧れを多大に含んだ眼差しを向けられ、田沼は苦笑を零した。

「一年もやれば同じくらい出来るようになるよ」

「そっスかねぇ……」

「二年ときのおれ、結構いっぱいいっぱいだった気がすっけどなぁ……?」

「え、ちょっと先輩!」

 訝る後輩と、自身の過去をわざとらしく振り返る先輩に挟まれ、田沼は慌てふためいた。いつのまにか才能があるかのように振る舞われ、たとえ冗談であっても居たたまれない。
 疑わしく先輩を睨むと、先輩はにやにやとした笑みを浮かべた。確実にからかっている。後輩も同じくにやにやしていて、田沼は笑うなと肘で小突いてやった。

「ま、冗談は置いといても、時期部長は田沼に決定かなぁ」

「ですね!」

「え、ぇえッ!嘘?!」

 しみじみと呟く先輩。力強く頷く後輩。冗談抜きの二人のやりとりに、田沼は愕然と声を上げる。嘘なものか、と言わんばかりの目で田沼を振り向いた二人に、田沼は入部当初以来久しぶりに和服を苦しく感じた。





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取り敢えず和装田沼をお楽しみいただければと。






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