「アーネスト!」

とてとてと走ってこちらへやってきたエリーはそのスピードを緩めないまま、俺の腰へとダイブしてきた。普段なら受け止められるのに今日は不意をつかれたせいか、受け身をとれないままエリーの身体を抱き留め二人一緒にソファへと倒れ込んだ。


「いたた……大丈夫?エリー」


こぶ出来たかも。痛む頭を我慢しつつ、体勢を整えてエリーを膝の上に乗せてやれば小さくごめんなさい、と呟く声が聞こえた。謝ることはないよ。俺はエリーとこうしてるときが一番幸せだ、と頭を撫でてやる。が、賢いエリーはまだ反省中なのか、嬉しさを噛み殺したような複雑な表情をしていて。


「ほら、そんな顔しないで」


笑いながら、柔らかい頬に手を添えてやると彼はようやくはにかむように笑ってくれた。ああ本当に、幸せだ。彼の笑顔を見ているだけで、ぎゅうと締め付けられるような、なんでもいいから叫び出したいような、それとも、息が詰まるような。なんとも言えない綯い交ぜになった気持ちに胸を乱されながら俺は笑顔のまま、「それで、どうしたの?」と先を促した。


「あのね。アーネストはけっこんする?」
「結婚?」
「さっき本でよんだんだ。すきなひとととけっこんして、ふうふっていうのになるんだって!」
「ああ……なるほど」


結婚。確かに見合い話はいくつも来るが、まだそんなこと考えてもいなかった。ううんと考えこむ俺に、エリーは少し伸び上がると小さな両手を広げて俺の頬に添える。


「俺、おっきくなったらアーネストとけっこんする!」
「へ?」
「アーネストのことだいすきだから、おっきくなったらけっこんするんだ!」


キラキラと輝く瞳を細め、俺の首にぎゅううと抱き着くエリオット。色素の薄い髪を揺らし、肩に頭を擦りつけて甘える姿は子猫のよう。


「じゃあ俺、エリーがおっきくなるまで待ってなきゃなあ」
「そうだよ!約束!」
「ん。約束な」


差し出された俺の半分も無い小指と自分の小指を絡めて、上下に振った。

――そうだ。これは木の葉が輝く、あの暖かい春の日の…





「アーネスト!」
「ん……」

勢い良く剥ぎ取られた掛け布団を追いかけて手をさ迷わせる。すでにカーテンの開けられた窓からは朝の清々しい日光が俺の顔目掛けてこれでもかと差し込む。


「エリー…眩しいって…」
「これぐらいしねぇと起きないだろうが!」
「はあ…。せっかく良い夢見てたのになあ…」
「良い夢?」
「エリーが小さい頃俺と結婚するーって言ってた夢」
「なっ……!」
「ね。今からでも、俺の奥さんになりませんか?」


エリーが毎朝起こしてくれるなら俺、起きられるようになるかも。方眉を上げて冗談混じりに告げれば、真っ赤な顔をした未来の奥さんは「ふざけるな!」と屋敷中に響く怒鳴り声をあげた。






僕は君の目覚まし時計じゃないんだよ






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