ただ照れくさいだけというのもある。元来の自分の性格というのもある。言葉がそんなに大切か?と少し強がっている部分もある。つまり色々な要素が複雑に絡み合ってエリオットは言ってしまったのだ、『おまえに好き好き言ってる暇はねえんだよ。』と。傷つけるために言いたかったのでも本当にそう思っているから言ったのでもない。けれど目の前で顔を歪ませたオズを見てそれは間違いだったことに気づく。 『好きって言って?』はオズの得意技だ。そうして彼はエリオットにたくさんの好きをくれる。はにかんで好き、と言ってくれたり、好きだから仕方ないじゃん!とぶっきらぼうに言ってみたり。そんな台詞は全てエリオットの心を擽るもので、言葉に甘いもへったくれもあるか、とは思うのだが何故か甘ったるいと感じるのだ。今日もそんな甘ったるい攻撃を受けながら、ただ素直さを幼い頃…もしくは母親の胎内に忘れてきたらしいエリオットは『エリオットも好きって言ってよー。』と後ろから抱き着いてくるオズにうるさいチビ、と上のような台詞を吐いてしまった。 「…あっそ。ならべつに言ってくれなくていいし。」 「あ、いや…さっきのは…。」 「悪かったですね暇なやつで!」 剣呑な眼差しで見つめてくるオズにエリオットはたじろぐ。完全に拗ねた風のオズはそのままぷいっと視線を逸らしてしまって、機嫌を損ねたらしいのは一目瞭然。困却したエリオットが伸ばした手には背を向けられた。 「…エリオットってさあ、」 「な、んだよ…。」 「……オレのことほんとに好きなわけ?べつに無理して付き合ってるだけなら別れたって…、」 しかしこれには流石にエリオットもぷっつり切れた。は?と出た声にオズの肩が跳ねる。それでも食い下がろうとするのはオズも負けず嫌いというか素直じゃないというか、結局はエリオットと似た人種なのだろう。 「だってそうだろ!?好きって言うのもオレだけだし!告白したのもオレからじゃん!」 「こっちから行動は起こしてやってるだろうが!」 「こ、行ど…っ!やらしい言い方しないでよ!」 「行動だけでんなこと言い出すおまえの頭の方がやらしいだろ!」 「な……っ!」 ばっと振り返ったオズは真っ赤な顔でパクパクと口を動かすだけだから、思わずエリオットはその華奢な身体を引っ張り胸に閉じ込めた。そのままキスをすればきゅうっと瞑られる瞼。 こうしてキスしたりするのは全部オレからのくせに生意気言うな、とエリオットが呟くそれに返ってきたのはしかし『性欲処、』と何とも失礼な一言だったので頭突きをして無理矢理途中で止めてやった。腕の中で身悶えるオズを見てこんな時だけ石頭でよかったと思う。 「っ、こういうとこに愛情感じないって言ってるの!むしろ殺意を感じるんですけど…!」 「オレの愛情はおまえにとっての殺意ってことだろ、価値観の相違だな。」 「…ムカつく…!その達観した言い方が腹立つ!」 「心が広いんだよおまえと違って。」 悔しがるオズが面白くて調子に乗ってそう言えばぽかり、と軽く殴られるそれは擽ったいくらいで笑ってしまう。そんなエリオットの頬をぎゅっと摘まんでくる辺りがオズらしくてまた喉を鳴らすと『笑うな!』の声。エリオットも何となくやり返すようにオズの頬を引っ張るとむにゅ、とよく伸びる柔らかなそこに余計に笑いの渦は止まらない。 「大体エリオットみたいなのと恋人してあげるオレの方が心広いよ!」 「おまえ頬柔らかすぎだろ…。」 「ちょっと人の話聞いてる!?」 「あーはいはい、聞いてる聞いてる。」 「絶対聞いてないっ!」 エリオットのぞんざいな返事に翠玉はむっとした色を灯す。それでも引っ張っていた手をやめて頬をするりと撫でればすぐに照れたように変わる瞳は初々しいというやつなのだろう。一瞬黙ったその隙に被せるべくエリオットが余裕ぶって口角を上げた。 「おまえみたいなやつを好きになって大事にしてやってるオレの心が広いって話だろ?」 「え?」 ぽかん、と表現するのが適したような顔。ぱちくりと何度も瞬きを落とすオズはエリオットを見つめながら言われた言葉を反芻する。好き、と初めて告げられたそこをじんわり理解して、瞬間にまた顔を赤らめた。そうして気づいた時には照れ隠しと言うには少し強すぎるビンタをかましていて。バチン!といい音を響かせ大声で叫ぶ。 「そ、そういうことじゃないっ!」 不足していたのはほんの少しの素直な心 (素直じゃないのはお互い百も承知で)(だからと言って素直になれるかは別問題だと思う…!) |