数ヶ月前に比べて遥かに白くなった肌に嫌気を感じた。血の巡りを感じさせない赤味のない真っ白な肌は小さな肉体の限界を色で表し、訴えていた。 いくら毛布を重ねても、いくら温かい飲み物を口の中に注ぎ込んでやったとしても、汚れのない白地の布のような肌は、頭の先から赤いペンキでも流してやらない限り色付かない。いつまでも白を保っていた。もう少しで全てを白に呑み込まれてしまう儚さを頭で理解してしまった瞬間、目頭が熱に覆われる。泣くな、と脳に命令を下し、伏せていた瞼を持ち上げる。だが、目に飛び込んできた白に、また目頭に熱が加わることになってしまった。 「泣きそうな顔してる」 笑みと共に温かな瞳が、やんわりと自身をからかう。昔から変わらない態度に低く唸った。 「してねぇよ、チビ」 「チビって言うな!…ーって、もう言い返せないや」 反論出来ないのは、やはり小さくなってしまった身体が原因だろう。面白みを感じないのを退屈に思うが、青白い顔を見ればこれからまた大きくなれるだろう、という希望を見出だせなかった。冷たい肉体と反対の、温かみある笑顔に、ゆるゆると緩む涙腺を叱る。決して泣かない奴の前で健康な肉体を持っている自分が泣くというのは、腹立たしく、そしてある意味での侮辱と同情だと思い、ぎゅっと拳を作る。 「オレが死んだら、ちゃんと好きな人作れよ」 唐突過ぎる怒りを煽る言葉に、感情は爆発する。大声を出した事に後悔したが、出さずにはいられなかった。 「ふざけるな!」 「ふざけてないよ。…ごめんな、エリオット。お前のこと好きになってあげられなくて」 想いを寄せている者から、好きな者を作れと言われた時の苦しみを知らないのだろうか、必死で思い続けてきたのに実らなかった想いを、ごめんの一つで片付ける気なのだろうか。 悲しみより憎しみが生まれた。精一杯の気持ちを喉から絞り出して叫んでやりたかった。悲しそうな、オズの瞳さえ見なければ叫んでいただろう。 「…お前は何も応えなかった」 責めるような口調になったのは無意識だ。 恥ずかしさを押し隠しながら、諦めきれず、何度もこの先、絶対口にしないであろう言葉をオズに吐き続けた。頬を朱に染めたり、動揺したり、はにかんだり、様々な表情は見れたけれどいちども望んでいた言葉は返ってこなかった。虚しいと心が叫んでいたが、自分の名をあの声に呼ばれると、あの存在に触れてしまうと、愛しさが積って、止められなかった。 「奥手そうなのに積極的でびっくりしたよ」 (、恥ずかしかったに決まっているだろう!) くすくす、と柔らかく垂れる目尻に、悪態は心の中でついた。 「エリオット、」 「…何だ」 「オレを、見付けてね」 次会った時は、エリオットに恋しているからさ。 魔法の言葉だと直感で思った、自分が目の前の人物を忘れない魔法だと。 じゃあ今恋しろ、なんて伝えたら、欲張りだな、と笑われた。 END |