春も終わり、夏の手前の梅雨時期に片足を踏み入れ始めた今日この頃。じめじめと上昇し始めた湿度とともに、じわじわと心を蝕む想いが一つ。恋心と理解するのに、時間はいらなかった。
 ついうっかりそれを零してしまったのが放課後で、図らずも実ったのが同時刻。夏目と田沼はいみじくも恋仲となり、その事実に浮かれたまま帰路を別った。お互い叶わないと思い、忘れようと思っていた矢先のこと。浮かれないわけがなかった。

「貴志くん、今日は何だかご機嫌ね。学校でいいことあったの?」

 藤原夫人に指摘され、夏目はそこでようやく自分の表情が緩んでいることに気付いた。慌てて引き締めるも、食卓を囲む席では夫人のみならず、藤原氏にも気付かれているとなっては意味もない。






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