オズの非情な問いに答えるものは、いなかった。浸食してくる沈黙に、我が主人だけが楽しそうに笑んでいる。一体いつからだろうか、こんなにも歪んできてしまったのは。ギルバートは混乱する思考の中で、そんなことを考える。
 布擦れの音すらしない室内。秒針のない時計も、場の空気に合わせたかのように黙りこくっている。酸素も凍ってしまったのか、息苦しくて堪らない。

「……アーネストは、オレの実兄だ」

 そんな中、張り詰めた均衡をそっと破るかのように呟いたのは、背後のエリオットだった。

「……え?」

 オズが予想外というような顔をしてエリオットを見やる。アーネストをエリオットの恋人だと納得したところへの、それだ。驚くのも無理はないだろう。
 エリオットは俯いたまま、苦しげに息をつきながら続けた。

「オレを一番可愛がってくれた、でも、死んだ。殺されたんだ……」

 淡々と紡がれる告白に、オズが息を飲む。誰かの死に、微笑んでいられるほど非情な人間にはなれていないようだった。
 ギルバートは背後の消え入りそうな声でのそれに、ただ胸の締め付けられる心地がした。アーネストは、エリオットには本当に優しかった。それだけにエリオットがどれほどの絶望に襲われたか、全く解らないわけではない。
 ギルバート自身、アーネストの死には何の感慨も抱いてはなかった。だがエリオットの痛みを思うと無感情ではいられなかった。エリオットはナイトレイで唯一、何の臆面もなく接してくれ、また接することができた存在だからだ。

「それを、お前は……逃げ出したんだ。ナイトレイから……!」

 そんな束の間の絆も、アーネストの死によって終わりを迎えたとは、何という皮肉だろう。吐き出されたエリオットの台詞に、ギルバートは身を強張らせた。否定したかった、だが否定するための言葉が見つからない。

「ギル、それって……」

 真意を知りたげなオズが問おうとする。ギルバートは何も言えず、ただ唇を噛んだ。

「オレたちなんて、どうでもいいんだろ。なぁ、ギルバート」

「それは違う!」

 荒い息の元で言うエリオットに、ギルバートは即座に否定した。だがエリオットに聞く耳はなかった。

「どうでもいいなら優しくするな!同情なんて真っ平御免なんだよ!放っといてくれ!」

「……ッ、エリオット!」

 叫ぶと同時に傾いだエリオットの体を、ギルバートは慌てて支える。だがエリオットはその腕すら拒絶するように抵抗をはじめた。

「やめろ、放せ……。何でそんな風にするんだ……」

 熱でままならない体で、尚も藻掻くエリオット。抱き締めたい衝動を押し殺して、エリオットの肩を捕らえたままいると、彼がふと顔を上げた。その表情を見たときの、アーネストへ抱いた羨望といったらない。

「勘違い、するだろ……」

 かつてない、自分自身へと純粋に向けられた切なげな眼差し。勘違いではないと、どうやったら伝えられるだろう。愛していると告げれば、あの絆以上のものが手に入るのだろうか。






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