細い均衡の糸に、刃が当てられた気分だ。もう少しで、二つに切れてもう戻せなくなってしまう。

「アーネストって、誰?」

オズの質の悪い笑みが、少しだけ目に入った。エリオットの顔を覗き込んでいる。あからさまに動揺を見せるエリオットが、固まっていた。さらさらと輝く金の髪が、重力に従って下に伸びる。

「オズ……それは───」

自分が、その問いを制止するように言った言葉は途中で立ち止まる。目を細めて妖しげに笑うオズは、とうとう糸に刃を立てた。きり、と少し力を込められた糸は抵抗もせず、ぷつんと切れた。


「アーネストって、エリオットの恋人…?」

「────ッ」


第三者のような気分だ。自分も深く関わっている筈なのに、きっと向かい合っているオズ達は相対する顔をしている。オズは底意地の悪い笑みを浮かべ、エリオットは苦しげに眉を寄せているのだ。


「……へぇ。」


地を這う、声だった。笑いをこらえるように怒りを込めるようなそんな声。普段聞くことのない、音が弾む。上から押さえつけられるようにエリオットは俯く。
きっと、眉を寄せて。悲しそうな顔をしているに違いない。どうしたらいいか、不甲斐ない自分が憎らしい。苦しむ義弟を救うことも、その苦しみから遠ざけることもできないなんて。


「…それなのに、ギルを取るんだ。」

「ふざけるなッ!誰が──」

「本当に?ギルを縛り付けてるんじゃないの?」


弾かれたように、顔を上げた表情は、やはり悲しそうだ。揺れる瞳が写しているのは自分の主であり、冷めた目をしたオズだった。何を考えているのか、何を目論んでいるのか。
そんなことを考えたのは、少し後で。言葉は何よりも先にでた。


「やめろ、オズ!」


オズに向き合う、エリオットを庇うように出た言葉はオズの意識を逆なでした。
そして目の前には、再び質の悪い顔をしてエリオットを見下ろした。


「じゃあ、ギルが言ったの?……恋人の変わりになる、って」






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