大きな手のひら。優しい手のひら。髪を撫でるくすぐったい感触にうっすら目を開ける。

熱に浮かされて、死ぬんじゃないかとくだらない不安が襲った幼少期も。軋む骨が辛くて歩けなくなった酷い高熱も、いつも隣には兄がいた。
名前を呼べば、どんなに小さくても顔を覗きこんで心配そうな顔をしていた。夜な夜な、苦しさに目を覚ませば看病をしていて、こっちが心配になってしまった。甲斐甲斐しく世話を焼く兄は、本当に大好きでたまらなかった。


「……アーネス、ト」


ぼやけた頭に映った心配そうな顔と優しい手のひらが、被さる。小さく呼んだ名前に、苦しさに滲んだ視界の見慣れた黒は悲しそうに微笑んだ。


「っ……離せ!」


その黒を見た瞬間に、どうしたらいいか分からなくなった。悲しみに任せている間はいい。その後の理性が戻ってきたとき、罪悪、嫌悪、憎悪、すべてがない交ぜになって襲いかかってくる。苦しくて、その感情を伝えることができなくて、イラつきに混じってオレは手をあげる。イラつきによって、義兄を蹴るのだ。


「目が、覚めたか」


そんな優しい顔をするな。兄と同じ優しいでさわるな。憎しみを込めていい、嫌悪感を滲ませていい。だからどうか、兄と同じ仕草をしないでくれ。

オレは、重ねてしまうから。そして何より自覚してしまうから。



自分は、義兄も兄も裏切っていることに。






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