ひとしきり泣き叫び暴れたあと、ふつりと糸が切れたように気を失った。ぐったりとしたエリオットの体を、ギルバートは両手で抱えて持ち上げる。その体はやけに熱かった。 心労で熱を出したエリオットは、そのまま目を覚まさず昏々と眠り続ける。寝顔は安らかではない。苦しげに眉を寄せ、荒い息を吐く。今の彼の心情そのものであるかのように。 ギルバートはベッドサイドでエリオットを見つめながら、苦々しい思いを握り締めていた。 『オレから大事なものを、奪わないでくれ……』 今大人になろうとしている子供に対して、馬鹿なことを言ったと思う。その場の状況に混乱し、必死になるあまり本心を有りのままに吐露してしまった。二人の子供の華奢な背に、何を背負わせてしまっているのだろう。大人にあるまじき言動だ。 オズは主人だが、だからとて頼りきっていい存在ではない。エリオットなどなおさら縋る存在ではない。なのに自分は、彼らに自分の存在意義を背負わせようとしている。経験少ない子供に、酷なことをしようとしている。否、してしまった。 それぞれがそれぞれの重荷を背負い、苦しみ、生きている。それを理解し、時には黙って見守り、時には重荷を軽減してやるのが大人なのではないのか。主人を支える従者の役目ではないのか。自分はそれらのいずれも出来ていないではないか。 (最低な人間だな、オレは……) 自嘲の息が零れた。自分のあまりの情けなさに涙も出ない。なんて愚かしい義兄で、従者なのだろう。エリオットに至っては、実兄を亡くした痛みに付け入ろうとしたのだ。最低にも程がある。 手袋を外し、熱で赤らんだエリオットの頬に触れる。酷く熱い体温だ。体調を崩すことなどあまりなかったエリオットの高熱に、最悪を予想して不安がよぎる。しっかりしなければと思うが、不安に飲み込まれて気を奮い立たせられない。 うっすらと開いたエリオットの眼には、最悪最低の人間が映っていることだろう。 |