思い出して、涙が沸くのはいつ以来だろうか。涙すら浮かばないほどに開いた空白は、いつしか崩壊した。狂うように泣き叫んだ日から、何日経ったか。指で数えられるだろう。 崩れた穴は、そこにあった愛を根こそぎ攫っていった。まるで、その愛を二度と受けとることができないことを物語るみたいに。 辛くて溜まらない。泣き出したくて、あの安心する腕で、手のひらで抱き締めてほしくて。この孤独と寂しさから救って欲しくて、オレはあんなにも邪険に扱った義兄に縋った。 「エリオット」 名前を呼ばれる度に、重ならない実兄の声がこだまする。不安げに触れてくる手のひらも、髪も声も、何一つ被らない義兄はまがい物でも何でもない。 『オレから大切なものを、奪わないでくれ……』 自分が無理矢理に、実兄の変わりをさせているのだ。胸から込み上げてくる痛みも苦しみも、拭ってくれる兄。どちらの兄も自分を大切に思ってくれている。だけれど、掴めない兄を求めるばかりに、オレを掴んでくれる兄に縋っている。 「…ア、ネスト」 自分の口から零れるのは、掴めない兄の名ばかり。目の前の兄にも、その主人にも暴力を振るっているのに。 自分はどちらの兄も手放すことができないのだ。無条件に愛を注いでくれたアーネスト。優しく、自分の要求を断らないギルバート。 自分の内から湧き上がる欲が憎い。自分に腹が立つ。 「……大丈夫、だ」 「…ッ──」 不安げに、寂しげに、ギルバートの目が揺れていた。髪を撫でてくる動作に、目の淵から涙が溢れて、オレはとうとう泣いた。 もう会えない兄に、目の前の義兄への申し訳なさ、そして自分への怒りに。ぐちゃぐちゃに混ざった思いを整理することなく、オレの意識は途絶えた。 |