一夜が明け、朝も遅くに目が覚めた。窓からは空高くまで昇った日の光が、容赦なく差し込んでいる。身支度を整えたら小一時間で昼になる。エリオットはベッドサイドの時計をぼんやりと眺めた。
 あれからギルバートたちは帰ったのか、図々しく泊まっていったのか。知る由はない。知りたくもないし、顔も見たくない。腹も空かなくて朝食を摂る気にもなれず、エリオットは酷く憂鬱な気分でベッドから這い出る。恐ろしいほどにやる気が出ない。
 服装、投げ出した剣、手放した本。全てが昨日のままだ。やたらと取り乱した覚えがある。だがそれに比例せずあまり室内が乱れていないことに、何だか違和感を覚えた。結局、荒れに荒れたのは自分の精神だけのようだ。忸怩たる思いが込み上げる。
 本を仕舞い、剣を納め、着替えに取り掛かる。目に入った写真立てのアーネストが、優しく笑っていた。写真に納められた記憶が、何故だか遠く感じる。急に懐かしくなり、恋しくなり、寂しくなり、悲しくなり、エリオットはその場に崩れ落ちた。

「アーネスト……。なぁ、アーネスト……!」

 呼び掛けに答える声はなく、声を上げて泣いた。自室にいるからと、人目も憚らずに慟哭を響かせた。誰かが聞き付けてくるかもしれないことなど、微塵も考えられなかった。

「エリオット?……エリオット!」

 扉の向こうから、ギルバートが半ば叫ぶようにしてエリオットを呼ぶ。だが答える心の暇など、今のエリオットにはない。無限の愛情があった世界から追放され、それでも尚、気丈に振る舞ってきたエリオットだが、限界だった。
 応答しないエリオットに焦れたギルバートが、了承もなしに部屋へ入ってくる。己を顧みずただ泣き崩れる姿を見て、義兄は何を思ったか。一度は動揺に足を止めたが、直ぐ様駆け寄っては強く抱き締めてくる。それはエリオットの悲哀を助長させるだけだった。

「放、せ……!お前じゃない、お前、じゃ……!」

 ギルバートの胸を押して離れようとするが、彼は許してくれない。それどころか更なる力で抱き竦めてくる。遠慮のない力の使い方に実兄の姿が過り、その愛情に縋りたいと思う自分に腹が立った。

「放せと言ってるだろう!オレはアーネストが……、アーネストを……ッ!」

 愛しているのだと、結局一度も告げられなかったことに、さらに涙が溢れだす。今なら言えるかもしれない。だから今すぐ会いにきてほしい。抱き締めて喜んでほしい。しかし願えども叶うことはない。愛しい人は死んだのだ。

「アーネスト!!」

 叫びはどこにも届かない。ただ義兄だけが耳にしている。唇を噛み締め自分を抱き締める彼に、エリオットはどうしようもなく縋りついた。身代わりのように、肩に顔を押しつけた。泣き止むまで待ってくれるギルバートは、あまりにも優しすぎる。






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