「オレの義兄に触るな……!!」

 叫んだあとで、自らが口にした言葉に驚愕する。今、自分は何という意味の台詞を零したのだろう。自分を射抜く二つの目線に曝され、エリオットは口を手で覆う。
 無意識の言動に過ったのは、実兄のアーネストの姿だった。失って久しい温もりを思い出したのは、そこに義兄がいるからなのか、ただ単に抱き締められたからなのか。むしろ両方かもしれない。
 エリオットは沸き上がった激情に任せて、目の前のギルバートを蹴飛ばした。予想しない衝撃に、ギルバートは派手に転倒する。オズの悲痛とも言える声が響いた。

「ギル!」

 ギルバートに駆け寄ったオズが、強くエリオットを睨む。だがエリオットには状況を冷静に判断する余裕がなくなっていた。

「出てけ、お前ら全員出てけ!!今すぐだッ!!」

 怒鳴るエリオットに、オズが怒り以外の感情を碧眼に宿した。尋常ではないものを感じ取ったらしい。いつになく感情を乱すエリオットを、黙って見ていた。

「エリオット、何故だ……!」

「触るな!!もう出ていってくれ!!」

 手を伸ばしたギルバートを、エリオットは拒絶する。激しく入り乱れる感情に、どうにかなってしまいそうだった。早く一人になって、落ち着きを取り戻したい。その一心で声を荒げる。
 察したオズが、惑い続けるギルバートの腕を引いた。おとなしくされるがままに部屋を出ていく義兄に、安堵しつつも憎らしい思いを抱く。信じられないほど、悔しい。
 やがて足音が聞こえなくなると、エリオットは剣すら投げ出しベッドに倒れこむようにして沈んだ。強い感情に震える体が、言うことを聞かない。泣きたくないのに涙が出る。

「……アーネスト」

 呟いた兄の名に、どっと感情が溢れだした。寒い、寂しい、苦しい、悲しい。こんな感情などアーネストがいれば、彼が指先一つで拭ってくれるのに、彼はいない。自らを抑制できない。
 エリオットはシーツをかぶって身を丸めた。体は怒鳴ったり泣いたりで火照っているのに、まるで凍えるように寒い。かつての温もりがないだけで、自分はこんなにも崩れていく。
 兄の温もりが、欲しかった。






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