問われた義兄は口籠もっていた。何を迷う必要があるのか、エリオットには解らない。もはや義兄とすら思われていないのに、元よりナイトレイではない上にナイトレイを嫌っているくせに、何故不安定な眼をするのか。言うべき答えは一つしかないというのに。

「オレは……」

 かち、と長針の進む音がした。愚かな義兄だった男は、答えを探るかのように自身の胸倉を掴む。主人であるオズは黙ってそんなギルバートを見下ろしていた。エリオットはもはや冷めた思いで、同じく見つめていた。

「何故、両方を選んではいけないんだ?」

 やがて絞りだされるようにして呟かれた言葉に、オズが眼を見開ないだ。エリオットもまた信じられないといった思いでギルバートに見入る。この男はどこまでも腐った人間のようだ。

「貴様はどこまでも駄目な人間のようだな」

「ギル。オレたちはお前の好みを聞いてるんじゃない。オレたちどちらのプライドを守るかを聞いてるんだよ」

 エリオットのもはや何の感情もない言葉のあとに、オズが薄ら笑いを浮かべながら言った。その眼はやはり笑ってなどいない。
 ギルバートは酷く傷ついた顔をしたが、すぐに何を思ったか眼を吊り上げた。いつになく強気な表情に、エリオットはつい目を見張ってしまう。オズも同じようだった。

「だったらオレも言わせてもらう。オレにはどっちも大事だ。どっちも守りたい。そう思って何が悪い?」

 立ち上がったギルバートが、オズの腕を掴む。そのままエリオットの元に大股で歩み寄ってきた。強い眼差しのギルバートと、目を白黒させたオズが近づいてくる。エリオットは逃げられずに、身を強張らせた。
 ぶつかる寸前、というところで感じたのは、抱きすくめられる感触だった。目線を横にすれば、ギルバートの頭と、その向こうに呆然としているオズの顔。どうやらまとめて抱き締められているようだ。

「オレから大事なものを、奪わないでくれ……」

 ギルバートの情けなくも悲痛な声が、耳元で揺れる。この男はどうしてこんなにも馬鹿なのかと、思わずにはいられなかった。






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